Existence *

「だから翔に借りてたお金」

「俺、貸した覚えねぇけど」

「翔はそう思ってるかも知れないけど、私は借りたから。留学資金は今は返せないとしても、せめて初めて会った時の30万と後、携帯代」

「……」

「後の分は少しづつゆっくり返していくから」

「は?何言ってんのお前」

「……」


ほんと、いつの話してんだよ、と思うほど過去の話。

そう思わせるくらい美咲との時間が経っているんだと思い知らされる。

お前に貸した記憶なんてねぇけど。

そして返してもらう権利もない。


「つか、もう返してもらった」

「え?」

「初めの30万はとっくに葵ちゃんから返してもらった」

「そうなんだ。…でも、いいよ」

「何がいいのか分かんねぇけど、俺は受け取れねぇから」

「何で?葵のは受け取れて私のは受け取れないって事?」

「美咲と葵ちゃんとでは立場が違う」

「立場って…」


全然違う。

お前にはわかんねぇだろうけど、全然違うから。


「とにかくそれ、いらねぇから」


俯く美咲から視線を外し、俺は居間に視線を向ける。

もうここへはどのくらい来ていなかったのだろう。

必然的に向かう足。

そしてそこにしゃがみ込んで目の前にある線香に火を点けて、それを立てた。


全然来てなくて、すみません…


手を合わせて、ただそれだけ伝える。

他に伝える事が何もなかった。

美咲の事をよろしくお願いします。と言ったお母さんとの約束。

だからこそ、今のこの現状を何も伝える事が出来なかった。


「…じゃあ、な」


立ち上がって美咲とすれ違い際に小さく呟く。

だけど、それも一瞬だった。


通り過ぎる瞬間、俺の腕を掴んだ美咲に思わず視線が動く。

俺の腕を掴んだにも関わらず、美咲は俯いたままその手に力を込めた。