吉崎先輩に向き直る。
視線がぶつかった。
逸らす素振りもない2つの目は、ずっとわたしのことを見つめていたのだと教えてくる。
先生との会話の間にも、先輩の瞳にはわたしの姿だけが絶え間なく映り続けていたのだとおもうと、ちょっとだけ、ゾクリとした。
「……それでは先輩。わたしもう行きますね」
そこまで言って思いだす、てのひらのぬくもり。
今の今までずっと、手首を掴まれて、ぎゅっとされているのだった。
もちろん先輩は離そうとしてくれない。
「先輩、手を……」
「なまえ」
「え?」
「名前、おしえてよ。おればっか知られてるの、フェアじゃないだろ?」
うむ、それもそうだ。
わたし、名乗りもせず一方的に先輩の名字を馴れ馴れしく呼んでしまっていた。
さすがに先輩相手に無礼すぎた。
どう謝罪を述べようかと頭の中でフル回転させていたら、吉崎先輩が眉を八の字にしてのぞきこんでくる。
「あ……ごめん、怒ってるわけじゃないんだ。ただきみの名前が知りたくて……。イヤじゃなければ、教えてくれ……ませんか」
どんどん語尾が小さくなり、うっすらと敬語など使われてしまう。
なんだか悪いことをしている気分になってきたぞ。
もやもやを振り払うために自分の名を告げた。



