君のためにこの詩(うた)を捧げる

昼休み。



「澪、屋上行こう」



輝に手を引かれて、人気のない階段を上る。



「ねぇ、ほんとにバレたらヤバいんじゃ――」



「大丈夫。マネージャーにも、ここが一番落ち着くって言ったから」



「そんな理由で!?」



「嘘。ほんとは、澪と話したかっただけ」



風が吹き抜けて、ネクタイがふわりと揺れる。



いたずらっぽい笑顔が、近い。



澪の背中が手すりに触れる距離まで、彼が顔を寄せる。



「ねぇ、澪。昨日の約束、覚えてる?」



「約束……?」



「“俺のこと、見てて”って」



彼の瞳が、まっすぐ射抜くように光る。



「……まだ、俺を見ててくれる?」



一瞬、時間が止まった。



風の音も、下の階の喧騒も消える。



澪はゆっくり頷いた。



「……見てるよ。ちゃんと」



「そっか」



輝は照れくさそうに笑うと、指先で澪の髪をそっと直した。



「それなら、もう少し近くで見てていい?」



その瞬間、階段の下から――



「澪ー! 輝くん、どこ行ったの!?」



七海の声が響き、二人は同時にハッと顔を離す。


「……危なかった」



「な、なにがっ」



輝は笑いながら、いたずらっぽくウインクする。
「学校潜入、悪くないな」