君のためにこの詩(うた)を捧げる

夜。



輝は撮影帰りのスタジオで、
鏡越しに自分を見ていた。



久しぶりにカメラの前に立つ自分。




でも、どこか遠く感じる。



(ステージの光よりも、
 あの子の笑顔のほうが、ずっと眩しかった。)




そう思った瞬間、
スマホが震えた。



――澪:会いたい。少しだけでも。



輝はすぐに返信を打った。



――今行く。



公園のベンチ。
冬の風に揺れるイルミネーション。




澪はマフラーに顔を埋め、
小さく手をこすっていた。



「……待たせた?」
声のする方を向くと、
輝が立っていた。



キャップの下の瞳が、
優しく笑っている。



「……会いたかった」


「俺も」


短い言葉の中に、
たくさんの想いが詰まっていた。


「湊くん、転校しちゃった」



「……聞いた」
澪は手紙を取り出した。



「最後まで、優しかったよ」
輝は黙って受け取る。



読んで、目を閉じた。



「……あいつ、ちゃんとしてるな」



「うん。ひかるも、ちゃんとしてるよ」



「え?」



「自分を責めすぎるとこ、
湊くんと同じくらい優しいとこ。
……でも、ちゃんと戻ってきてくれたから。」



輝は、澪の手をそっと握った。



その手は冷たくて、でも確かに生きていた。



「もう離さない」


「うん」


夜風が、二人の間を抜けていく。



指先が触れ合うたび、心臓の鼓動が重なる。



「俺、これからまた歌う。
でも、前とは違う。
“守りたい人”のために、歌うんだ。」


澪は微笑んだ。



「その歌、私にも届く?」


「一番に届くように、歌うよ」


輝がそう言って、
そっと澪の頬に口づけた。


冷たい空気の中で、
二人の呼吸が混ざっていく。


その温度は、
“愛の証”のように静かで、確かだった。