君のためにこの詩(うた)を捧げる

「すみません、通ります!」とスタッフが後ろから声をかけ、
慌ててよけた拍子に、持っていた教科書を落としてしまう。



「うわっ……!」



拾おうとしゃがみこんだその視線の先で、誰かが手を伸ばした。
日差しの中で、その影が重なる。



「……澪?」



ゆっくり顔を上げると、そこにいたのは――
光の中の彼、橘輝だった。



「ひ、かる……?」



「やっぱり。お前、結城澪だろ?」



周りのざわめきが遠のく。
七海が息を呑む音すら聞こえない。
ただ、心臓の音だけがやけに大きく響いていた。



「久しぶりだな。まさか、同じ学校にいるとは思わなかった」



「……こっちこそ。まさか、テレビの中の人になるなんて」



「はは、テレビの中ね。けど、俺にとっちゃ――」
輝は少し顔を近づけ、



「澪のほうがよっぽど、遠くに行っちゃった気がする」
と、囁いた。
頬が熱くなる。



七海が後ろで「キャーッ」と叫んだのがかすかに聞こえた。



スタッフの声が響く。



「輝くん、次のカット行きます!」



彼は一歩離れ、いたずらっぽく笑う。



「撮影終わったら、ちょっと話そう。……まだ、あの公園にいる?」



「え?」



「約束、忘れてないよな」
そう言って、輝は撮影現場へと戻っていった。