君のためにこの詩(うた)を捧げる

放課後。



澪は七海の姿を見つけた。



校門の向こう、黒いコートを羽織り、
スマホを見つめていた。



「七海さん……!」



「……澪ちゃん」


七海は目を伏せる。



その表情は、どこか後悔に滲んでいた。



「どうして……湊くんを?」



「……ごめん」
七海は静かに息を吐いた。



「輝が“澪に会うな”って言ったの。



彼を焦らせたくて、湊を近づけた。



でも、あの子が本気になるなんて思わなかった」


「そんな理由で……人の気持ちを使ったの?」



澪の声は震えていた。



「ひかるを好きだからって、
誰かを傷つけていい理由にはならないよ」


七海は苦笑するように言った。



「……本当に、彼が好きなんだね」



「当たり前だよ」



「でも、彼の“本当の理由”を聞いても、
まだそう言える?」



「……え?」



七海は小さく首を振った。



「彼が活動休止したのは、体調とかじゃない。
――澪ちゃん、君を守るためだよ。」




一瞬、時間が止まった。



「守る……?」



「週刊誌に出たあの写真、
君が写ってるの、覚えてるでしょ?」



澪はうなずく。



「でも、あれは偶然で……」



「偶然でも、芸能界じゃ致命的だったの。
“橘輝、交際疑惑”って。
事務所は澪ちゃんの名前を出すなって言ったけど、
彼は――自分から活動を止めたの。
“俺のせいで澪が傷つくなら、全部俺が消える”って。」



澪の目に、涙があふれた。
その場に立っていられなくなるほどの衝撃。



(そんな……ひかるが、そんな理由で……?)