君のためにこの詩(うた)を捧げる

「俺、もう我慢できない」



「ひかる……」



「もし、俺が“君を奪う”って言ったら……困る?」


胸の奥が跳ねた。
言葉が出ない。


彼はゆっくりと手を伸ばし、澪の頬に触れた。



「この手で触れたら、全部壊れるかもしれない。
それでも……お前が欲しい」


澪は小さく首を振った。



「ダメだよ……そんなこと言ったら、全部終わっちゃう」


「終わってもいい。俺は、澪といたい」



「でも、私は……ひかるの夢を奪いたくない」


沈黙。


雨が降り始めた。
屋上の窓を叩く音が、ふたりの間を埋める。


「……ごめん」

輝は手を離した。



その瞳に浮かぶのは、痛みと後悔と、それでも消えない熱。


「俺、もうどうすればいいかわかんない。
でも、絶対にあきらめないから」


背を向けた輝の肩が震えていた。



その姿を見送ることしか、澪にはできなかった。


(“奪う”なんて言わないでよ……
そんな言葉、信じたら、戻れなくなる。)


窓の外の雨が滲んで、
校舎の光がぼやけて消えていった。