君のためにこの詩(うた)を捧げる

撮影初日。


放課後の校舎に、またスタッフが集まっていた。


前と同じ場所、でも違う空気。
澪は遠くの廊下から見つめていた。


カメラの前に立つ輝と七海。


笑顔で見つめ合って、台本の通りに台詞を交わす。
照明が二人を包み、
監督の「カット!」が響く。


七海が笑って輝の肩を叩く。


彼も笑い返す。


――それだけのはずなのに、
胸の奥がきつく締めつけられた。


「……なんで、そんな顔してるの」


背後から声がした。


振り返ると、輝が立っていた。


撮影の合間、スタッフが休憩に入った隙に抜け出してきたのだろう。


「見てたの?」


「うん。……ごめん、勝手に」



「別に。見られるの、慣れてるし」



「でも、七海といると……すごく自然で」



「演技だよ」



「わかってる。けど、見てる方は、苦しくなる」


輝は一歩近づいた。



距離が縮まるたびに、空気が熱を帯びていく。


「澪。俺、あのシーン撮ってる時、
ずっと“お前”のこと考えてた」



「……嘘」



「ほんと。七海のこと、女の子として見れない。
目の前にいても、頭の中に浮かぶのは澪だけ」


彼の声が低く落ちる。



瞳の奥が、真剣すぎて怖いくらいだった。