君のためにこの詩(うた)を捧げる

「……ドラマ、決まったんだ」

昼休みの屋上。


七海が嬉しそうに笑っていた。



スマホの画面には、ネットニュースの記事。


《橘輝、新ドラマで恋人役に抜擢された新人女優・春野七海》


「すごいでしょ? まさか私がオーディション受かるなんて」


「……ほんとに、すごい」



澪は笑顔を作ったけれど、心の奥で何かがざらりと波打った。


(七海が……輝の、恋人役)


七海は芸能事務所に所属していて、昔から演技が上手かった。


嫉妬なんて、したくない。


でも、あの名前を見た瞬間、胸の奥がチクリと痛んだ。


「撮影、来週からなんだって。キスシーンもあるんだよ、やばくない?」


「……キス、シーン?」


「台本に書いてあってさ、“初恋の再会”みたいな感じで」


七海は照れくさそうに笑う。


その笑顔が、澪には遠く感じた。


(私とひかるの再会と、同じじゃん……)