君のためにこの詩(うた)を捧げる

帰り道、
ポケットの中でスマホが震えた。



画面に映る名前――
《橘 輝》


思わず立ち止まる。



雨音にかき消されそうな小さな声で、通話ボタンを押した。


「……もしもし」



『澪? ……今、大丈夫?』



かすれた声。

いつもの自信に満ちたトーンじゃない。

どこか、壊れそうに弱い。


「どうしたの、ひかる。こんな時間に」



『……撮影、終わらなくて。スタジオ出たら、雨でさ。タクシーも捕まらないし……なんか、急に声が聞きたくなった』



胸の奥が、きゅっと痛む。



「どうしたの、そんな弱気な声」



『強がってるの、疲れた』



「……」



『“いません”って言った時、澪の顔が浮かんだ。
ほんとは、心の中で“います”って、叫んでた』



言葉が出なかった。



電話越しの沈黙に、雨音が混ざる。