「今日、うちの学校でドラマの撮影あるらしいよ!」
朝の教室に響いたのは、親友・七海(ななみ)の声だった。
カーテンの隙間から射し込む光の中で、七海はスマホを握りしめ、目を輝かせている。
「主演、橘 輝(たちばな ひかる)だって! やばくない!? 今いちばん人気の俳優だよ!?」
「……橘、輝?」
ペンを持つ手が、止まった。
(まさか……そんな偶然、ある?)
七海がスマホの画面を突き出してくる。
そこには、白いシャツを少しラフに着崩した青年が映っていた。
完璧な横顔。淡い光に包まれた笑顔。
けれど――その奥に、知っている“影”が見えた。
(やっぱり……ひかる、だ。)
隣に住んでいた、幼なじみの男の子。
一緒にアイスを半分こして、雨の日は傘を取り合って。
「俺、絶対俳優になる」
そう言って笑った、あの日の声が耳の奥で蘇る。
「澪、顔色悪くない? どうしたの?」
七海の問いに、慌てて笑ってごまかす。
「ううん、なんでもない。ただちょっと、懐かしい名前聞いただけ」
「え? 澪、橘輝のこと知ってるの!?」
「ちょ、ちょっとだけね! 昔、近所にいたの」
「えぇーーっ!? ちょっとどころじゃないじゃん! 幼なじみとか!?」
「そ、そんな大げさな……」
七海の目がきらきらと輝いている。
一方で、澪の胸の中は妙なざわめきに満たされていく。
もし本当に、彼がこの学校に来るなら――。
もし、再会したら――。
(私、どうすればいいんだろう……)



