『隣で、生きていく。』 こちらはマンガシナリオになります。 「第9回noicomiマンガシナリオ大賞」にエントリーしています。

柱: 放課後/校舎裏の自転車置き場/午後5時45分


ト書き:
薄暗くなり始めた空。夕焼けが赤から藍に変わる。

人気のない校舎裏で、美海は自転車のカギを探している。

風に髪が揺れ、制服のスカートがひらりと舞う。

そのとき、背後から低い声。


玲央(低く):「……帰るのか?」


ト書き:
振り向くと、玲央が立っていた。

シャツの袖をまくり、少し汗ばんだ首筋。

その目は、どこか張りつめている。


美海(微笑して):「うん。今日は委員会で遅くなっちゃって。」

玲央(近づきながら):「……誰といた?」

美海(戸惑って):「え?」

玲央:「廊下で、男の声。笑ってただろ。」


ト書き:
美海は一瞬、息を呑む。

玲央の表情には、冷たい怒りと、不安が入り混じっていた。


美海(静かに):「玲央、それは──ただの話。生徒会の──」

玲央(遮って):「もうやめろ。
誰かと笑うたびに、心臓が締め付けられる。
お前が俺の知らない誰かを見てるのが、怖くてたまらない。」


ト書き:
玲央の声が震える。

抑えてきた想いが、限界を越えたように。

一歩、また一歩。彼が近づくたびに、距離が消えていく。


美海(小声で):「玲央……」

玲央(低く、真剣に):「……俺、もう我慢できない。お前が誰を見ても、誰と話しても、俺はその全部を壊したくなる。だったらいっそ、俺のものにしたい。」


ト書き:
その言葉は告白ではなく、叫びのようだった。

風が吹いて、桜の花びらが夜に散る。


美海(涙をこらえながら):「玲央……そんなの、苦しいよ。」

玲央(掠れた声で):「苦しくても、離せない。お前がいないと、息ができない。
俺はずっと、お前を奪いたかった。」


ト書き:
その瞬間、玲央は美海の腕を掴む。

力強いのに、震えている。

そして、額を彼女の肩に押し当てた。


玲央(かすれた声で):「ごめん。俺、壊れてる。」

美海(静かに):「……壊れてなんかないよ。玲央は、優しすぎるだけ。」


ト書き:
美海はゆっくり、彼の頬に触れた。

その指先に触れたのは、熱。

玲央の目が驚いたように揺れ、唇が震える。


美海(続けて):「私、誰にも奪われないよ。玲央の想いも、ちゃんと受け止めたい。でも、“奪う”じゃなくて、“選ばせて”。それが、私の恋だから。」


ト書き:
玲央は、しばらく動けなかった。

やがて、ゆっくり腕を離す。

その瞳には、涙とも汗ともつかない光。


玲央(低く、少し笑って):「……やっぱり、勝てないな。」

美海(優しく微笑んで):「勝ち負けじゃないよ。」


ト書き:
空が完全に夜色に変わる。

街灯の光が二人を包み、影が重なる。


玲央(心の声):
(奪うんじゃない。守りたい。)

(この人を、ちゃんと愛せるように――変わりたい。)

ト書き:
その夜、玲央は初めて“奪う”の意味を知った。

それは、独り占めではなく、共に生きるための覚悟。

――二人の恋が、静かに形を変えた夜。