柱:朝・登校途中/晴れ
ト書き: 昨日の雨が嘘みたいに晴れた朝。
校門へと続く坂道の両側には、まだ濡れた葉が陽を反射してきらきらと光っていた。
美海は坂を登りながら、昨日の玲央の言葉を思い出していた。
――「壊れてるの、直してやる」
あの低くて優しい声が、何度も頭の中で響く。
セリフ(美海・心の声) 「玲央、あのあとずっと残ってたけど……ピアノ、本当に直してくれたのかな」
ト書き: 校舎に入ると、音楽室の方からかすかな金属音が聞こえた。
美海がそっと扉を開けると、そこには
――
工具を手にした玲央がいた。
セリフ(美海・驚きながら) 「ほんとに直してる……!」
セリフ(玲央・振り返らず) 「うるさい。朝早く来たんだろ」
セリフ(美海) 「だって気になって……」
ト書き: 玲央の手元。
油で少し汚れた指先が、壊れたピアノの部品を丁寧に磨いている。
その横顔は、真剣で――どこか、優しかった。
美海は息をのんだ。
“怖い”って言われる彼が、 こんなに静かに、何かを大切そうに触れている姿を見たのは初めてだった。
セリフ(美海・そっと) 「……似合わないね」
セリフ(玲央・眉をひそめて) 「は?」
セリフ(美海・笑いながら) 「こういうの。ピアノ直してる玲央、優しすぎて」
ト書き: 玲央は少し黙って、工具を置いた。
そして、視線を美海に向ける。
セリフ(玲央・低い声で) 「優しいってのは、悪口か?」
セリフ(美海・少し慌てて) 「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
ト書き: 玲央が口元を少しだけ緩めた。
ほんの一瞬の笑み。
けれどそれは、美海の心を一瞬で掴んだ。
柱:昼休み・中庭
ト書き: 風の通る中庭。
桜の葉がひらひらと舞い落ちるベンチに、美海と玲央が並んで座っている。
美海の手には、購買のパン。
玲央の手には、無言で差し出されたコーヒー牛乳。
セリフ(美海・笑いながら) 「またそれ? 毎日コーヒー牛乳飲んでる気がする」
セリフ(玲央) 「落ち着く」
セリフ(美海) 「ふーん……じゃあ、落ち着く顔してる今の玲央、ちょっと珍しいかも」
ト書き: 玲央が少しだけ目線を逸らす。
その耳が、またほんのり赤い。
セリフ(玲央・ぼそりと) 「……うるさい」
セリフ(美海) 「え? なに?」
セリフ(玲央) 「なんでもねぇ」
ト書き: 美海はその不器用なやり取りに、思わず笑った。
けれど――心の奥は、静かに波立っている。
彼の隣にいると、安心する。
怖くない。
むしろ、彼が誰かを殴る理由も、少しだけ分かる気がしていた。
柱:放課後・音楽室前の廊下
ト書き: 夕暮れ。
音楽室の扉には「修理中」の貼り紙。
玲央はその前に立ち、ピアノの調律具を片付けていた。
セリフ(美海・そっと近づいて) 「もう直った?」
セリフ(玲央) 「まあな。音は戻った」
ト書き: 玲央が鍵盤を一つ叩く。
柔らかい音が室内に響く。
その音は、どこか優しくて――あたたかかった。
セリフ(美海・目を輝かせて) 「すごい……ほんとに直ってる」
セリフ(玲央・小声で) 「言っただろ。壊れたもんは、直せる」
セリフ(美海・そっと) 「……心も?」
ト書き: 玲央の動きが、止まった。
長い沈黙。
夕陽が二人の間を染めていく。
セリフ(玲央) 「……お前が、いれば」
セリフ(美海・驚いて) 「え?」
セリフ(玲央・目を逸らして) 「いや、なんでもない」
ト書き: 美海は何も言えずに、 ただ彼の横顔を見つめた。
頬にかかる夕陽が、金色に光る。
その顔は――誰よりも優しかった。
柱:下校時・昇降口
ト書き: 靴を履き替えながら、玲央が無言で傘を差し出した。
今日は晴れているのに。
セリフ(美海・笑って) 「……また貸してくれるの?」
セリフ(玲央) 「昨日、返すって言ってたから」
セリフ(美海) 「でも、今日は雨降ってないよ?」
セリフ(玲央) 「……降ってなくても、返すって約束だろ」
ト書き: 美海は傘を受け取りながら、ふと気づく。
その傘の取っ手に、小さく名前が刻まれていた。
――R.A.
セリフ(美海・小声で) 「……玲央、これ……」
セリフ(玲央・小さく笑って) 「バレたか」
セリフ(美海) 「なんで名前入ってるの?」
セリフ(玲央) 「落としても、お前が見つけるように」
ト書き: その瞬間、 美海の胸が“ぎゅっ”と音を立てた。
言葉が出ない。
ただ、息が詰まるほど、嬉しかった。
柱:校門前/夕暮れ
ト書き: 風が吹き抜け、髪が揺れる。
二人の距離は、肩が触れそうで触れない。
セリフ(美海・小さな声で) 「玲央って……優しいね」
セリフ(玲央・ぼそりと) 「お前だけな」
ト書き: 美海の心臓が跳ねた。
玲央の視線はまっすぐで、嘘がない。
セリフ(美海・顔を赤らめて) 「……そういうの、ずるいよ」
セリフ(玲央) 「お前が鈍いだけ」
ト書き: 夕陽が完全に沈む。
校舎の影が長く伸び、風の中で二人だけの時間が止まったようだった。
玲央がポケットに手を突っ込みながら言う。
セリフ(玲央) 「俺、もう喧嘩しねぇ。お前に言われたし」
セリフ(美海) 「ほんとに?」
セリフ(玲央・小さく頷いて) 「……その代わり、守ってやるのは、言葉で」
ト書き: その言葉に、美海は目を細めた。
涙が出そうなくらい、嬉しくて、眩しかった。
ト書き: 昨日の雨が嘘みたいに晴れた朝。
校門へと続く坂道の両側には、まだ濡れた葉が陽を反射してきらきらと光っていた。
美海は坂を登りながら、昨日の玲央の言葉を思い出していた。
――「壊れてるの、直してやる」
あの低くて優しい声が、何度も頭の中で響く。
セリフ(美海・心の声) 「玲央、あのあとずっと残ってたけど……ピアノ、本当に直してくれたのかな」
ト書き: 校舎に入ると、音楽室の方からかすかな金属音が聞こえた。
美海がそっと扉を開けると、そこには
――
工具を手にした玲央がいた。
セリフ(美海・驚きながら) 「ほんとに直してる……!」
セリフ(玲央・振り返らず) 「うるさい。朝早く来たんだろ」
セリフ(美海) 「だって気になって……」
ト書き: 玲央の手元。
油で少し汚れた指先が、壊れたピアノの部品を丁寧に磨いている。
その横顔は、真剣で――どこか、優しかった。
美海は息をのんだ。
“怖い”って言われる彼が、 こんなに静かに、何かを大切そうに触れている姿を見たのは初めてだった。
セリフ(美海・そっと) 「……似合わないね」
セリフ(玲央・眉をひそめて) 「は?」
セリフ(美海・笑いながら) 「こういうの。ピアノ直してる玲央、優しすぎて」
ト書き: 玲央は少し黙って、工具を置いた。
そして、視線を美海に向ける。
セリフ(玲央・低い声で) 「優しいってのは、悪口か?」
セリフ(美海・少し慌てて) 「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
ト書き: 玲央が口元を少しだけ緩めた。
ほんの一瞬の笑み。
けれどそれは、美海の心を一瞬で掴んだ。
柱:昼休み・中庭
ト書き: 風の通る中庭。
桜の葉がひらひらと舞い落ちるベンチに、美海と玲央が並んで座っている。
美海の手には、購買のパン。
玲央の手には、無言で差し出されたコーヒー牛乳。
セリフ(美海・笑いながら) 「またそれ? 毎日コーヒー牛乳飲んでる気がする」
セリフ(玲央) 「落ち着く」
セリフ(美海) 「ふーん……じゃあ、落ち着く顔してる今の玲央、ちょっと珍しいかも」
ト書き: 玲央が少しだけ目線を逸らす。
その耳が、またほんのり赤い。
セリフ(玲央・ぼそりと) 「……うるさい」
セリフ(美海) 「え? なに?」
セリフ(玲央) 「なんでもねぇ」
ト書き: 美海はその不器用なやり取りに、思わず笑った。
けれど――心の奥は、静かに波立っている。
彼の隣にいると、安心する。
怖くない。
むしろ、彼が誰かを殴る理由も、少しだけ分かる気がしていた。
柱:放課後・音楽室前の廊下
ト書き: 夕暮れ。
音楽室の扉には「修理中」の貼り紙。
玲央はその前に立ち、ピアノの調律具を片付けていた。
セリフ(美海・そっと近づいて) 「もう直った?」
セリフ(玲央) 「まあな。音は戻った」
ト書き: 玲央が鍵盤を一つ叩く。
柔らかい音が室内に響く。
その音は、どこか優しくて――あたたかかった。
セリフ(美海・目を輝かせて) 「すごい……ほんとに直ってる」
セリフ(玲央・小声で) 「言っただろ。壊れたもんは、直せる」
セリフ(美海・そっと) 「……心も?」
ト書き: 玲央の動きが、止まった。
長い沈黙。
夕陽が二人の間を染めていく。
セリフ(玲央) 「……お前が、いれば」
セリフ(美海・驚いて) 「え?」
セリフ(玲央・目を逸らして) 「いや、なんでもない」
ト書き: 美海は何も言えずに、 ただ彼の横顔を見つめた。
頬にかかる夕陽が、金色に光る。
その顔は――誰よりも優しかった。
柱:下校時・昇降口
ト書き: 靴を履き替えながら、玲央が無言で傘を差し出した。
今日は晴れているのに。
セリフ(美海・笑って) 「……また貸してくれるの?」
セリフ(玲央) 「昨日、返すって言ってたから」
セリフ(美海) 「でも、今日は雨降ってないよ?」
セリフ(玲央) 「……降ってなくても、返すって約束だろ」
ト書き: 美海は傘を受け取りながら、ふと気づく。
その傘の取っ手に、小さく名前が刻まれていた。
――R.A.
セリフ(美海・小声で) 「……玲央、これ……」
セリフ(玲央・小さく笑って) 「バレたか」
セリフ(美海) 「なんで名前入ってるの?」
セリフ(玲央) 「落としても、お前が見つけるように」
ト書き: その瞬間、 美海の胸が“ぎゅっ”と音を立てた。
言葉が出ない。
ただ、息が詰まるほど、嬉しかった。
柱:校門前/夕暮れ
ト書き: 風が吹き抜け、髪が揺れる。
二人の距離は、肩が触れそうで触れない。
セリフ(美海・小さな声で) 「玲央って……優しいね」
セリフ(玲央・ぼそりと) 「お前だけな」
ト書き: 美海の心臓が跳ねた。
玲央の視線はまっすぐで、嘘がない。
セリフ(美海・顔を赤らめて) 「……そういうの、ずるいよ」
セリフ(玲央) 「お前が鈍いだけ」
ト書き: 夕陽が完全に沈む。
校舎の影が長く伸び、風の中で二人だけの時間が止まったようだった。
玲央がポケットに手を突っ込みながら言う。
セリフ(玲央) 「俺、もう喧嘩しねぇ。お前に言われたし」
セリフ(美海) 「ほんとに?」
セリフ(玲央・小さく頷いて) 「……その代わり、守ってやるのは、言葉で」
ト書き: その言葉に、美海は目を細めた。
涙が出そうなくらい、嬉しくて、眩しかった。



