柱:放課後・校門前/雨
ト書き: チャイムが鳴り終わっても、教室に残る生徒はまばら。
窓の外では、いつの間にか雨が降り出していた。
灰色の雲が、空をすっかり覆っている。
美海は傘を忘れたことに気づき、鞄の中を探す。
教室の隅に、置き傘の箱。
けれどそこにも一本も残っていない。
セリフ(美海・小声で) 「……やっちゃった」
ト書き: 廊下を歩く足音。
振り返ると、玲央がカバンを肩にかけて立っていた。
セリフ(玲央) 「帰らないのか」
セリフ(美海) 「あ、傘忘れちゃって……。玲央は?」
セリフ(玲央) 「ある」
ト書き: 玲央が手にしていたのは、黒い折りたたみ傘。
無地で、シンプル。
彼らしい。
少し迷ったあと、玲央は傘を開いて、美海の方を見た。
セリフ(玲央) 「……一緒に行くか?」
ト書き: その一言に、美海の心が一瞬止まる。
冗談でも冷やかしでもなく、ただ自然に言ってのけた。
セリフ(美海・笑顔で) 「うん。……ありがとう」
柱:学校前の坂道/雨の中
ト書き: 一つの傘の下。
玲央の肩越しに見える景色は、いつもより静か。
雨の音と、二人の足音だけが響く。
傘の端から、ぽとりと水滴が落ちて、二人の手の甲を濡らした。
セリフ(美海・ぽつりと) 「玲央、昔もこんなふうに一緒に帰ったよね」
セリフ(玲央) 「……覚えてる」
セリフ(美海) 「ほら、小学校の時、帰り道で雨に降られて。玲央が『濡れても平気』って言ってたのに、次の日、風邪ひいたんだよ」
セリフ(玲央・小さく笑って) 「……そんなこともあったな」
ト書き: 美海の横顔を、玲央はふと見た。
少し伸びた髪。濡れたまつげ。
それらが、どこか懐かしい。
でも、今の彼女はもうあの頃とは違う。
強くなった。優しくなった。
そして、今も変わらず“真っ直ぐ”だった。
セリフ(玲央) 「……お前ってさ、変わらないよな」
セリフ(美海) 「そう? 私、ちょっとは大人になったと思ってるけど」
セリフ(玲央) 「中身の話だ。……嘘つけないところ」
ト書き: 美海は照れくさそうに笑う。
雨粒が傘を叩く音が、少しだけ柔らかくなったように感じた。
柱:信号の前/夕方・雨上がり
ト書き: 交差点の信号が赤に変わる。
二人は立ち止まり、ふと空を見上げた。
雲の切れ間から、夕陽が少しだけ差し込んでいる。
傘の中に、オレンジ色の光が落ちる。
美海がそっと指を伸ばし、傘の布を押さえる。
セリフ(美海) 「ねぇ、玲央。あの噂……気にしてないって言ってたけど」
セリフ(玲央) 「まだ気にしてるのか」
セリフ(美海) 「うん。だって……玲央は悪くないのに」
セリフ(玲央) 「世の中、悪くなくても言われることある。慣れた」
ト書き: 玲央の声は静かで、どこか遠い。
けれど、美海にはその“慣れた”という言葉が、 小さな悲鳴のように聞こえた。
セリフ(美海) 「……慣れないでいいよ」
セリフ(玲央) 「は?」
セリフ(美海) 「傷つくことに、慣れちゃだめだよ」
ト書き: 玲央が目を丸くする。
次の瞬間、青信号に変わる。
歩き出そうとした美海の指先が、玲央の手に触れた。
ほんの一瞬。
でも確かに、触れた。
セリフ(玲央・少し照れながら) 「……危ないだろ」
セリフ(美海・頬を赤らめて) 「ご、ごめん。つい……」
ト書き: 玲央は顔をそむける。
けれどその耳は、うっすら赤く染まっていた。
柱:分かれ道/雨上がりの夕暮れ
ト書き: 駅へ向かう道の手前で、二人の帰り道は分かれる。
雨はすっかり止み、アスファルトの上に夕陽が反射していた。
セリフ(玲央) 「……ここでいい。俺、こっち」
セリフ(美海) 「うん」
ト書き: 傘を閉じ、玲央が軽く畳む。
その瞬間、美海の髪が風に揺れて頬を撫でた。
玲央は小さく息を呑む。
セリフ(玲央・小声で) 「また明日」
セリフ(美海) 「うん。……ありがとう、玲央」
ト書き: 玲央が背を向ける。
けれど、数歩歩いたあと、ふと立ち止まった。
セリフ(玲央・背中越しに) 「……傘、貸しとく。明日、返せばいい」
セリフ(美海・微笑んで) 「ありがとう」
ト書き: 玲央は手を振らずに去っていった。
けれど、美海の胸の中には、 彼が差し出した傘よりもずっと温かいものが残っていた。
雨上がりの空。
遠くで虹がかかっている。
――それは、
“二人の過去”と“これから”を繋ぐ最初の橋だった。
ト書き: チャイムが鳴り終わっても、教室に残る生徒はまばら。
窓の外では、いつの間にか雨が降り出していた。
灰色の雲が、空をすっかり覆っている。
美海は傘を忘れたことに気づき、鞄の中を探す。
教室の隅に、置き傘の箱。
けれどそこにも一本も残っていない。
セリフ(美海・小声で) 「……やっちゃった」
ト書き: 廊下を歩く足音。
振り返ると、玲央がカバンを肩にかけて立っていた。
セリフ(玲央) 「帰らないのか」
セリフ(美海) 「あ、傘忘れちゃって……。玲央は?」
セリフ(玲央) 「ある」
ト書き: 玲央が手にしていたのは、黒い折りたたみ傘。
無地で、シンプル。
彼らしい。
少し迷ったあと、玲央は傘を開いて、美海の方を見た。
セリフ(玲央) 「……一緒に行くか?」
ト書き: その一言に、美海の心が一瞬止まる。
冗談でも冷やかしでもなく、ただ自然に言ってのけた。
セリフ(美海・笑顔で) 「うん。……ありがとう」
柱:学校前の坂道/雨の中
ト書き: 一つの傘の下。
玲央の肩越しに見える景色は、いつもより静か。
雨の音と、二人の足音だけが響く。
傘の端から、ぽとりと水滴が落ちて、二人の手の甲を濡らした。
セリフ(美海・ぽつりと) 「玲央、昔もこんなふうに一緒に帰ったよね」
セリフ(玲央) 「……覚えてる」
セリフ(美海) 「ほら、小学校の時、帰り道で雨に降られて。玲央が『濡れても平気』って言ってたのに、次の日、風邪ひいたんだよ」
セリフ(玲央・小さく笑って) 「……そんなこともあったな」
ト書き: 美海の横顔を、玲央はふと見た。
少し伸びた髪。濡れたまつげ。
それらが、どこか懐かしい。
でも、今の彼女はもうあの頃とは違う。
強くなった。優しくなった。
そして、今も変わらず“真っ直ぐ”だった。
セリフ(玲央) 「……お前ってさ、変わらないよな」
セリフ(美海) 「そう? 私、ちょっとは大人になったと思ってるけど」
セリフ(玲央) 「中身の話だ。……嘘つけないところ」
ト書き: 美海は照れくさそうに笑う。
雨粒が傘を叩く音が、少しだけ柔らかくなったように感じた。
柱:信号の前/夕方・雨上がり
ト書き: 交差点の信号が赤に変わる。
二人は立ち止まり、ふと空を見上げた。
雲の切れ間から、夕陽が少しだけ差し込んでいる。
傘の中に、オレンジ色の光が落ちる。
美海がそっと指を伸ばし、傘の布を押さえる。
セリフ(美海) 「ねぇ、玲央。あの噂……気にしてないって言ってたけど」
セリフ(玲央) 「まだ気にしてるのか」
セリフ(美海) 「うん。だって……玲央は悪くないのに」
セリフ(玲央) 「世の中、悪くなくても言われることある。慣れた」
ト書き: 玲央の声は静かで、どこか遠い。
けれど、美海にはその“慣れた”という言葉が、 小さな悲鳴のように聞こえた。
セリフ(美海) 「……慣れないでいいよ」
セリフ(玲央) 「は?」
セリフ(美海) 「傷つくことに、慣れちゃだめだよ」
ト書き: 玲央が目を丸くする。
次の瞬間、青信号に変わる。
歩き出そうとした美海の指先が、玲央の手に触れた。
ほんの一瞬。
でも確かに、触れた。
セリフ(玲央・少し照れながら) 「……危ないだろ」
セリフ(美海・頬を赤らめて) 「ご、ごめん。つい……」
ト書き: 玲央は顔をそむける。
けれどその耳は、うっすら赤く染まっていた。
柱:分かれ道/雨上がりの夕暮れ
ト書き: 駅へ向かう道の手前で、二人の帰り道は分かれる。
雨はすっかり止み、アスファルトの上に夕陽が反射していた。
セリフ(玲央) 「……ここでいい。俺、こっち」
セリフ(美海) 「うん」
ト書き: 傘を閉じ、玲央が軽く畳む。
その瞬間、美海の髪が風に揺れて頬を撫でた。
玲央は小さく息を呑む。
セリフ(玲央・小声で) 「また明日」
セリフ(美海) 「うん。……ありがとう、玲央」
ト書き: 玲央が背を向ける。
けれど、数歩歩いたあと、ふと立ち止まった。
セリフ(玲央・背中越しに) 「……傘、貸しとく。明日、返せばいい」
セリフ(美海・微笑んで) 「ありがとう」
ト書き: 玲央は手を振らずに去っていった。
けれど、美海の胸の中には、 彼が差し出した傘よりもずっと温かいものが残っていた。
雨上がりの空。
遠くで虹がかかっている。
――それは、
“二人の過去”と“これから”を繋ぐ最初の橋だった。



