柱:朝・教室/始業前
ト書き: チャイムが鳴る前の教室。
まだ半分くらいの生徒しか登校していない。
黒板の前には、席替えのくじ箱。
クラス委員が「一人ずつ引いてね〜!」と声を張る。
美海は笑顔で順番を待っていた。
くじを引く瞬間、胸の中に少しだけ期待と不安が入り混じる。
――隣の席、誰になるかな。
ト書き: 手の中の紙を開く。
黒板に貼り出された座席表に、名前が書かれていた。
美海の視線が止まる。
心臓が一瞬、跳ねた。
セリフ(美海・小声で) 「……え?」
ト書き: 隣の席——新井玲央。
教室の空気が少しざわついた。
周りの女子たちの声が一斉に上がる。
セリフ(女子A) 「真波、美海……隣、玲央じゃん!」
セリフ(女子B) 「大丈夫? 怖くない?」
セリフ(男子) 「真波、運悪ぃな〜」
ト書き: 笑い混じりの言葉たち。
けれど、美海は小さく微笑んだ。
セリフ(美海) 「ううん。……大丈夫だよ」
ト書き: 誰も知らない。
この胸の中で、 “懐かしい気持ち”がゆっくり息を吹き返していることを。
柱:1時間目直前/教室
ト書き: 玲央は、無言で机に座っていた。
イヤホンを片耳だけつけて、窓の外を見ている。
誰かに話しかけられても返事をしない。
ただ、静かに息をしているだけ。
美海は少しだけ緊張していた。
声をかけるか、迷っている。
でも——何も言わずにいたら、また距離ができてしまう気がして。
セリフ(美海・小さく) 「……おはよう」
ト書き: 一瞬だけ、玲央の指が止まる。
ゆっくりと顔を上げる。
目が合う。
その目は、冷たく見えるのに、不思議と穏やかだった。
セリフ(玲央) 「……おはよう」
ト書き: たったそれだけの会話なのに、 胸の奥がじんわり温かくなる。
周りの友達がこっそり囁く声が聞こえる。
「え、しゃべった?」
「真波すげぇ……」
セリフ(美海・小声で笑いながら) 「……すごいって、なにそれ」
ト書き: 玲央の口元が、ほんの少しだけ動いた。
気づかれないほど、微かに。
笑ったような気がした。
柱:昼休み/教室
ト書き: 昼休みの教室。
クラスのあちこちで弁当を広げる音。
美海は席でお弁当を開いた。
ふと隣を見ると、玲央は机に突っ伏している。
寝ているのか、ただ目を閉じているのか分からない。
セリフ(美海) 「玲央、お昼食べないの?」
ト書き: 返事はない。
けれど、微かに眉が動いた。
まるで「放っておけ」と言っているようで、 でもどこか寂しそうでもあった。
セリフ(美海) 「……ほら、これ。卵焼き、好きだったよね」
ト書き: 小さなタッパーに入った卵焼きを、玲央の机の端に置く。
玲央はゆっくり顔を上げた。
無言で見つめ合う数秒。
セリフ(玲央) 「覚えてたのか」
セリフ(美海) 「うん。昔、よく一緒にお弁当食べたから」
ト書き: 玲央は一瞬、視線を落とし、 静かに箸を取って卵焼きを口に運ぶ。
セリフ(玲央) 「……味、変わらないな」
セリフ(美海・微笑んで) 「玲央も、変わってないよ」
ト書き: その言葉に、玲央は何か言いかけたが、 すぐに口を閉じた。
代わりに、指先でペンを軽く回す。
癖のような仕草。
静かな昼。
それだけで、美海には十分だった。
柱:放課後・教室
ト書き: 授業が終わり、夕陽が窓から差し込む。
美海はカバンをまとめながら、玲央に小さく声をかけた。
セリフ(美海) 「ねえ、玲央」
セリフ(玲央) 「……なに」
セリフ(美海) 「噂のこと、気にしてない?」
ト書き: 玲央の指が止まる。
視線だけが美海に向けられる。
セリフ(玲央) 「……噂なんて、勝手に消える」
セリフ(美海) 「でも、傷ついてるでしょ」
セリフ(玲央) 「……お前まで信じるのか」
セリフ(美海) 「信じてないよ。信じてるのは、玲央のことだけ」
ト書き: 玲央がわずかに目を見開く。
その瞳に、一瞬だけ光が宿った。
セリフ(玲央・低く) 「……バカだな、お前」
セリフ(美海) 「玲央限定の、ね」
ト書き: 玲央は、少しだけ視線を逸らした。
頬に、夕陽の赤が滲む。
窓の外では、風が校庭の砂をさらっていく。
その音だけが、静かに響いた。
――彼女の声が、確かに届いた瞬間だった。
ト書き: チャイムが鳴る前の教室。
まだ半分くらいの生徒しか登校していない。
黒板の前には、席替えのくじ箱。
クラス委員が「一人ずつ引いてね〜!」と声を張る。
美海は笑顔で順番を待っていた。
くじを引く瞬間、胸の中に少しだけ期待と不安が入り混じる。
――隣の席、誰になるかな。
ト書き: 手の中の紙を開く。
黒板に貼り出された座席表に、名前が書かれていた。
美海の視線が止まる。
心臓が一瞬、跳ねた。
セリフ(美海・小声で) 「……え?」
ト書き: 隣の席——新井玲央。
教室の空気が少しざわついた。
周りの女子たちの声が一斉に上がる。
セリフ(女子A) 「真波、美海……隣、玲央じゃん!」
セリフ(女子B) 「大丈夫? 怖くない?」
セリフ(男子) 「真波、運悪ぃな〜」
ト書き: 笑い混じりの言葉たち。
けれど、美海は小さく微笑んだ。
セリフ(美海) 「ううん。……大丈夫だよ」
ト書き: 誰も知らない。
この胸の中で、 “懐かしい気持ち”がゆっくり息を吹き返していることを。
柱:1時間目直前/教室
ト書き: 玲央は、無言で机に座っていた。
イヤホンを片耳だけつけて、窓の外を見ている。
誰かに話しかけられても返事をしない。
ただ、静かに息をしているだけ。
美海は少しだけ緊張していた。
声をかけるか、迷っている。
でも——何も言わずにいたら、また距離ができてしまう気がして。
セリフ(美海・小さく) 「……おはよう」
ト書き: 一瞬だけ、玲央の指が止まる。
ゆっくりと顔を上げる。
目が合う。
その目は、冷たく見えるのに、不思議と穏やかだった。
セリフ(玲央) 「……おはよう」
ト書き: たったそれだけの会話なのに、 胸の奥がじんわり温かくなる。
周りの友達がこっそり囁く声が聞こえる。
「え、しゃべった?」
「真波すげぇ……」
セリフ(美海・小声で笑いながら) 「……すごいって、なにそれ」
ト書き: 玲央の口元が、ほんの少しだけ動いた。
気づかれないほど、微かに。
笑ったような気がした。
柱:昼休み/教室
ト書き: 昼休みの教室。
クラスのあちこちで弁当を広げる音。
美海は席でお弁当を開いた。
ふと隣を見ると、玲央は机に突っ伏している。
寝ているのか、ただ目を閉じているのか分からない。
セリフ(美海) 「玲央、お昼食べないの?」
ト書き: 返事はない。
けれど、微かに眉が動いた。
まるで「放っておけ」と言っているようで、 でもどこか寂しそうでもあった。
セリフ(美海) 「……ほら、これ。卵焼き、好きだったよね」
ト書き: 小さなタッパーに入った卵焼きを、玲央の机の端に置く。
玲央はゆっくり顔を上げた。
無言で見つめ合う数秒。
セリフ(玲央) 「覚えてたのか」
セリフ(美海) 「うん。昔、よく一緒にお弁当食べたから」
ト書き: 玲央は一瞬、視線を落とし、 静かに箸を取って卵焼きを口に運ぶ。
セリフ(玲央) 「……味、変わらないな」
セリフ(美海・微笑んで) 「玲央も、変わってないよ」
ト書き: その言葉に、玲央は何か言いかけたが、 すぐに口を閉じた。
代わりに、指先でペンを軽く回す。
癖のような仕草。
静かな昼。
それだけで、美海には十分だった。
柱:放課後・教室
ト書き: 授業が終わり、夕陽が窓から差し込む。
美海はカバンをまとめながら、玲央に小さく声をかけた。
セリフ(美海) 「ねえ、玲央」
セリフ(玲央) 「……なに」
セリフ(美海) 「噂のこと、気にしてない?」
ト書き: 玲央の指が止まる。
視線だけが美海に向けられる。
セリフ(玲央) 「……噂なんて、勝手に消える」
セリフ(美海) 「でも、傷ついてるでしょ」
セリフ(玲央) 「……お前まで信じるのか」
セリフ(美海) 「信じてないよ。信じてるのは、玲央のことだけ」
ト書き: 玲央がわずかに目を見開く。
その瞳に、一瞬だけ光が宿った。
セリフ(玲央・低く) 「……バカだな、お前」
セリフ(美海) 「玲央限定の、ね」
ト書き: 玲央は、少しだけ視線を逸らした。
頬に、夕陽の赤が滲む。
窓の外では、風が校庭の砂をさらっていく。
その音だけが、静かに響いた。
――彼女の声が、確かに届いた瞬間だった。



