『隣で、生きていく。』 こちらはマンガシナリオになります。 「第9回noicomiマンガシナリオ大賞」にエントリーしています。

柱: 数日後/放課後の屋上/午後4時


ト書き:
秋の風がやわらかく吹き抜ける。

放課後の屋上は、オレンジ色の光に満たされている。

フェンスにもたれ、空を見上げる美海の髪が風に揺れた。

玲央はその隣で、静かに手すりを握っている。


美海(微笑して):「……もうすっかり秋だね。」

玲央(短く):「ああ。」


ト書き:
会話は短いけれど、沈黙が苦ではない。

以前なら、無言の時間に戸惑っていた美海も、
今はその“静けさ”の意味を知っている。


美海(小さく息を吐いて):「玲央、あの日……お父さんと話せて、少し変わった気がする。」

玲央(視線を落として):「正直、楽にはなってない。
 でも、あいつの言葉をもう“呪い”にはしないって決めた。」


ト書き:
玲央の声は、穏やかだった。

かつて誰よりも荒れていた少年の口から出る“穏やか”という響きが、
美海の胸に温かく残る。


美海:「……玲央のそういうところ、すごいと思う。ちゃんと、自分を見ようとしてる。」

玲央(照れ隠しに眉をしかめて):「お前がうるさいくらい言ってくるからだろ。」

美海(くすっと笑って):「うるさいとか言わない。」


ト書き:
玲央も思わず笑う。

風が吹いて、二人の笑い声が夕暮れに溶けていく。


玲央(少し間を置いて):「……なあ、美海。俺、前に“お前を奪う”って言ったよな。」

美海(頷いて):「うん、覚えてる。少し怖かったけど……でも嬉しかった。」

玲央(目を伏せて):「あれはさ、俺の“弱さ”の言葉だった。
 誰にも取られたくないって、不安の裏返し。」

美海(静かに):「玲央……」

玲央(顔を上げて):「でも今は違う。
 お前と同じ方向を見て歩きたい。
 奪うんじゃなくて、隣にいたい。」


ト書き:
美海の胸がじんわりと熱くなる。

玲央の瞳はまっすぐで、そこにはかつての孤独な影はもうなかった。


美海(微笑して):「……私も、そう思ってた。誰かに守られるだけじゃなくて、
 玲央と一緒に“支え合いたい”って。」


ト書き:
玲央がゆっくりと手を伸ばす。

風の中で、指先が触れる。

ほんの一瞬の距離が、永遠の約束のように感じられた。


玲央(かすかに笑って):「……こうしてると、落ち着くな。」

美海(小さく笑って):「うん、私も。」


ト書き:
太陽が沈む。

光がふたりの輪郭を淡く包み、
空は橙から群青へと変わっていく。


玲央(ふと空を見上げて):「……こんな世界なら、生きてていい気がする。」

美海(そっと寄り添って):「玲央がいる世界だからね。」


ト書き:
玲央は少しだけ目を見開き、美海の髪をそっと撫でる。

風が止まり、静かな時間が流れる。


ト書き:
傷ついた過去も、不器用な想いも、
すべて抱えて、それでも生きていく。

“奪う恋”ではなく、“支え合う愛”へ。

彼らの物語は、まだ終わらない。

ト書き:
校舎のチャイムが遠くで鳴る。

それは、終わりの鐘ではなく──新しい始まりの合図。


玲央(静かに):「行くか。」

美海(頷いて):「うん。」


ト書き:
ふたりは並んで歩き出す。

その背中に、沈みゆく空が優しく寄り添っていた。