柱: 翌日・日曜日/玲央の家近くの川沿い/午後3時
ト書き: 曇り空の下、川沿いの風が少し冷たい。
土手を歩く美海は、手に小さな袋を抱えていた。
中には、手作りのクッキー。
玲央が「好き」と言っていたチョコチップ入りだ。
美海(心の声): (昨日の玲央……少し笑ってた)
(でも、あの笑顔の奥に、まだ消えない影がある)
ト書き: 川沿いのベンチに、玲央がいた。
イヤホンを片耳に差したまま、ぼんやりと水面を見つめている。
風が彼の髪を揺らし、その横顔はどこか遠い。
美海(優しく):「玲央。」
ト書き: 玲央が振り向く。
少し驚いたように眉を上げ、それから微笑を浮かべた。
玲央:「……美海。どうしたの?」
美海:「クッキー焼いたの。昨日の、お礼。」
ト書き: 玲央は袋を受け取り、黙って中を覗く。
そして、ほんの少しだけ笑った。
玲央(穏やかに):「ありがと。……美海の手作り、久しぶりだな。」
美海:「中学の時以来だね。覚えてたんだ。」
玲央(小さく笑って):「あのとき、焦がしたやつ。」
美海(照れながら):「もう言わないでよ。」
ト書き: 二人の間に、わずかに笑いがこぼれる。
でも、その後すぐに沈黙が落ちた。
川の流れる音だけが響く。
美海(そっと):「……玲央。昨日、言ってた“怖い”って……ずっと前からなの?」
ト書き: 玲央の表情がわずかに陰る。
彼は視線を川面に落としたまま、小さく息を吐く。
玲央(低く):「……たぶん、ずっとだ。小さい頃、家で喧嘩ばっかり見てた。親父が母さんに怒鳴って、物を壊して……それを止めようとした俺が、殴られた。」
ト書き: 美海は息を飲む。
玲央の声は淡々としているのに、その中にひどく痛い静けさがあった。
玲央(続ける):「そのうち、俺も怒ることでしか何もできなくなった。誰かが俺を見下したり、バカにしたりすると……体が勝手に動いてた。中学の頃、美海のことを庇ったときも、俺、止まらなかったんだ。」
美海(小さく首を振りながら):「あのとき、私、玲央に助けられたのに。」
玲央(苦笑して):「守りたくて殴ってた。結局、父親と同じだった。」
ト書き: 玲央の手が膝の上で握られる。
美海はその手を、そっと包み込んだ。
美海(静かに):「玲央は、お父さんとは違う。だって、昨日……“殴らない”って選んだでしょ?怖くても、止まれた。それが全然違うよ。」
ト書き: 玲央の瞳が揺れる。
強く握っていた拳が、少しずつ緩んでいく。
玲央(かすれた声で):「……俺、変われるのかな。」
美海(涙をこらえながら):「変われるよ。だって、もうこんなに優しくなってるもん。」
ト書き: 玲央は顔を上げる。
美海の目には涙が浮かんでいた。
それを見た瞬間、玲央の胸が締め付けられる。
玲央(震える声で):「泣くなよ……俺のせいで。」
美海(涙を拭いながら笑って):「違うの。玲央のこと、ちゃんと知れて嬉しいの。」
ト書き: 玲央は呆然と彼女を見つめる。
その笑顔は、どこまでも優しく、痛いほど真っすぐだった。
玲央(心の声): (俺の過去を知っても、離れないのか……)
(こんな人、他にいない)
ト書き: 玲央は美海の頭に手を伸ばし、そっと抱き寄せた。
風が吹き、木々がざわめく。
彼女の髪が玲央の胸に触れる。
玲央(小さく):「美海……俺、お前がいてくれてよかった。」
美海(胸の中で囁くように):「玲央……一緒に、前に進もう。」
ト書き: 痛みの中に芽生えた恋は、 過去を超えて、未来を掴もうとしていた。
“孤独”と“優しさ”が溶け合うとき、 二人の心は、ようやく同じ温度になった。
ト書き: 曇り空の下、川沿いの風が少し冷たい。
土手を歩く美海は、手に小さな袋を抱えていた。
中には、手作りのクッキー。
玲央が「好き」と言っていたチョコチップ入りだ。
美海(心の声): (昨日の玲央……少し笑ってた)
(でも、あの笑顔の奥に、まだ消えない影がある)
ト書き: 川沿いのベンチに、玲央がいた。
イヤホンを片耳に差したまま、ぼんやりと水面を見つめている。
風が彼の髪を揺らし、その横顔はどこか遠い。
美海(優しく):「玲央。」
ト書き: 玲央が振り向く。
少し驚いたように眉を上げ、それから微笑を浮かべた。
玲央:「……美海。どうしたの?」
美海:「クッキー焼いたの。昨日の、お礼。」
ト書き: 玲央は袋を受け取り、黙って中を覗く。
そして、ほんの少しだけ笑った。
玲央(穏やかに):「ありがと。……美海の手作り、久しぶりだな。」
美海:「中学の時以来だね。覚えてたんだ。」
玲央(小さく笑って):「あのとき、焦がしたやつ。」
美海(照れながら):「もう言わないでよ。」
ト書き: 二人の間に、わずかに笑いがこぼれる。
でも、その後すぐに沈黙が落ちた。
川の流れる音だけが響く。
美海(そっと):「……玲央。昨日、言ってた“怖い”って……ずっと前からなの?」
ト書き: 玲央の表情がわずかに陰る。
彼は視線を川面に落としたまま、小さく息を吐く。
玲央(低く):「……たぶん、ずっとだ。小さい頃、家で喧嘩ばっかり見てた。親父が母さんに怒鳴って、物を壊して……それを止めようとした俺が、殴られた。」
ト書き: 美海は息を飲む。
玲央の声は淡々としているのに、その中にひどく痛い静けさがあった。
玲央(続ける):「そのうち、俺も怒ることでしか何もできなくなった。誰かが俺を見下したり、バカにしたりすると……体が勝手に動いてた。中学の頃、美海のことを庇ったときも、俺、止まらなかったんだ。」
美海(小さく首を振りながら):「あのとき、私、玲央に助けられたのに。」
玲央(苦笑して):「守りたくて殴ってた。結局、父親と同じだった。」
ト書き: 玲央の手が膝の上で握られる。
美海はその手を、そっと包み込んだ。
美海(静かに):「玲央は、お父さんとは違う。だって、昨日……“殴らない”って選んだでしょ?怖くても、止まれた。それが全然違うよ。」
ト書き: 玲央の瞳が揺れる。
強く握っていた拳が、少しずつ緩んでいく。
玲央(かすれた声で):「……俺、変われるのかな。」
美海(涙をこらえながら):「変われるよ。だって、もうこんなに優しくなってるもん。」
ト書き: 玲央は顔を上げる。
美海の目には涙が浮かんでいた。
それを見た瞬間、玲央の胸が締め付けられる。
玲央(震える声で):「泣くなよ……俺のせいで。」
美海(涙を拭いながら笑って):「違うの。玲央のこと、ちゃんと知れて嬉しいの。」
ト書き: 玲央は呆然と彼女を見つめる。
その笑顔は、どこまでも優しく、痛いほど真っすぐだった。
玲央(心の声): (俺の過去を知っても、離れないのか……)
(こんな人、他にいない)
ト書き: 玲央は美海の頭に手を伸ばし、そっと抱き寄せた。
風が吹き、木々がざわめく。
彼女の髪が玲央の胸に触れる。
玲央(小さく):「美海……俺、お前がいてくれてよかった。」
美海(胸の中で囁くように):「玲央……一緒に、前に進もう。」
ト書き: 痛みの中に芽生えた恋は、 過去を超えて、未来を掴もうとしていた。
“孤独”と“優しさ”が溶け合うとき、 二人の心は、ようやく同じ温度になった。



