『隣で、生きていく。』 こちらはマンガシナリオになります。 「第9回noicomiマンガシナリオ大賞」にエントリーしています。

柱: 放課後/帰り道〜公園/午後6時半〜夜


ト書き:
放課後の空は、群青と橙が溶け合う。

校門を出る二人の影が長く伸び、夕暮れの道に寄り添っていた。

玲央は片手に美海のバッグを持ち、もう片方の手で彼女の手をそっと握っていた。

その手の温度が、互いの鼓動を伝えている。


美海(照れながら):「……手、強くない?」

玲央(小さく苦笑して):「あ、ごめん。こういうの、慣れてなくて。」

美海:「ううん。……ちょっと、嬉しい。」


ト書き:
二人の歩幅が自然と揃う。

風が通り抜け、街灯が一つ、また一つと灯り始める。

通学路の先にある小さな公園。

ブランコがきぃ、と微かに鳴る音だけが響いていた。


柱: 公園/夜の入り口


ト書き:
玲央はベンチに腰を下ろし、美海を隣に促す。

夜風が冷たく、二人の肩が少し触れた。

その瞬間、玲央が小さく息を呑む。


玲央(小声で):「……俺さ、ずっと誰かを守るなんてできないと思ってた。でもお前といると、ちゃんと人間になれる気がする。」

美海(微笑して):「ちゃんと人間だよ、玲央は。不器用で、まっすぐで、優しい人。」


ト書き:
玲央はその言葉に顔を伏せる。

髪が前に落ち、表情が見えない。

沈黙。

けれど、その沈黙には穏やかなぬくもりがあった。


玲央(ぽつりと):「……怖いんだ。お前を傷つけたくない。でも、もっと近くにいたい。」

美海(静かに):「玲央。」


ト書き:
美海は小さく彼の頬に手を伸ばし、触れた。

玲央の目が驚いたように見開かれる。

指先に触れる彼の体温。鼓動が伝わる距離。


美海(優しく):「怖がらないで。私、玲央が好きだから。優しいところも、不器用なところも、ぜんぶ。」


ト書き:
玲央は何かを堪えるように、唇を噛みしめた。

そして、ゆっくりと顔を上げ、美海を見つめる。

その瞳は、まるで夜空の奥で光る星のように揺れていた。


玲央(掠れた声で):「……キス、してもいい?」


ト書き:
一瞬、風が止まる。

美海はわずかに頷いた。

玲央が手を伸ばし、彼女の頬を包む。
唇が触れる。

短くて、静かなキス。

それは熱よりも、想いを確かめるような、優しい口づけだった。


美海(心の声):
(痛くない。怖くない。玲央の“好き”が、ちゃんと伝わる。)


ト書き:
唇が離れる。

玲央は照れくさそうに顔を逸らし、小さく息を吐いた。

玲央(照れながら):「……ごめん。急に。」

美海(微笑して):「ううん。ありがとう。」


ト書き:
彼女の言葉に、玲央の表情がふっと和らぐ。

長い夜の入り口で、二人はただ手をつないでいた。

言葉はいらなかった。

触れた手の温度が、すべてを語っていた。


ト書き:
“触れる”ことが“壊す”ことじゃないと知った夜。

怖さの先にあったのは、確かな愛の形。

――二人の世界が、やっとひとつになった。