きみの春に、溶けていく -プロローグ-

記憶は全部、痛くて苦しくて。
それでも心が破れてしまいそうなくらいに、君が好き。
いつか私の記憶がなくなってもどうか、届いて。

私は治療のことを全部、朔に話した。

「だから私、もうすぐ忘れてしまうかも。ずっと覚えていられなくてごめんね」

「それでも灯のそばにいるよ。ずっとずっと約束だから」

朔は私を抱きしめてくれる。
このぬくもりも、忘れていく。

「必要なことだけ覚えていられる確率、ほぼないんだって」

失いたくないーー
それでも
世界が消えて、
だんだん記憶は曖昧になっていっても
大切なこともそうじゃないことも、選べなくても。
ただ、ただそばに居たい。

朔は震えてる。
怖いんだろうか、悲しいんだろうか。

「ねぇ、朔。泣かないで。これあげる」
「なに?」
「これ、クリスマスプレゼント。朔の好きな星のキーホルダー。小物入れになってて中に色々入れられるんだよ」
「ありがとう。大事にする。じゃあ俺も」

そう言って、朔はカバンからマフラーを取り出した。
赤い色の可愛いリボンが着いたマフラー。
私が店でかわいいって、何気なく呟いたやつ。

「覚えててくれてありがとう。私も大事にする」
「そのマフラーする度に俺のことを思い出してよ」
「うん、そうする」

約束するね。
朔のこと忘れない。
2025年のクリスマスイブは世界でいちばん幸せな女の子になれた。