月に一度、施設の人に精神科に連れてかれる。
両親のこととか、記憶のこととかを聞かれる。
私は毎回同じことを答える。寧ろ歳を経るほどに両親の死の瞬間がありありと浮かび上がってくる。
「ーー父は上半身から下が有りません。母は頭がひしゃげています。それでも私は『生きている』と二人を思っています。幼すぎて意味が分からなかったけれど、今の私には分かります。雪が車の割れた窓の隙間から入ってきて私の身体をうちつけます。救急車の音が聞こえます。救急隊員が『あかりちゃん』と私の名前を何度も呼びます。ライトが眩しくてそのライトで父の体が良く見えてしまうから」
そこまで伝えたところで、精神科医が私の言葉を制した。私はそこで起きたことを聞かれたからありのままに話したいだけなのに。
「灯ちゃんももう17歳だから。そろそろ分かるよね。普通の人はそんなに覚えられない。例えば朔くんは灯ちゃんのこと、全部覚えてる? 事故のことも同じ境遇だけど、同じだけ答えられる?」
「いいえ。でも朔はそんな私を特別だと言ってくれます」
「そう。それはね朔くんが普通の人の記憶力と感性だから。忘れたくなくても忘れてしまう。灯ちゃんも、普通の人になりたくないかな?」
「はい……朔と同じになりたいです。朔と同じ目で、同じ記憶でこの世界を見たいです」
「うん。なら、そろそろ治療を始めようか」
そうすると、先生は治療の説明をしてくれた。
3ヶ月くらいかけて桜の咲く春には治療の効果が完全に行き渡るらしい。
それはだんだんと記憶が繋がらなくなっていって、それでもいずれは普通の人と同じような記憶力になるっていうものだった。
「治療、直ぐに始めてください」
クリスマスイブの一日前、私は普通の人になる決意をした。
雪が舞ってる。
またあの日のように。
朔に出会った、両親が死んだ、あの日のように。
冬はいつまでもそこにあって、春は来なかった。
溶けない氷の中に、私はいた。
両親のこととか、記憶のこととかを聞かれる。
私は毎回同じことを答える。寧ろ歳を経るほどに両親の死の瞬間がありありと浮かび上がってくる。
「ーー父は上半身から下が有りません。母は頭がひしゃげています。それでも私は『生きている』と二人を思っています。幼すぎて意味が分からなかったけれど、今の私には分かります。雪が車の割れた窓の隙間から入ってきて私の身体をうちつけます。救急車の音が聞こえます。救急隊員が『あかりちゃん』と私の名前を何度も呼びます。ライトが眩しくてそのライトで父の体が良く見えてしまうから」
そこまで伝えたところで、精神科医が私の言葉を制した。私はそこで起きたことを聞かれたからありのままに話したいだけなのに。
「灯ちゃんももう17歳だから。そろそろ分かるよね。普通の人はそんなに覚えられない。例えば朔くんは灯ちゃんのこと、全部覚えてる? 事故のことも同じ境遇だけど、同じだけ答えられる?」
「いいえ。でも朔はそんな私を特別だと言ってくれます」
「そう。それはね朔くんが普通の人の記憶力と感性だから。忘れたくなくても忘れてしまう。灯ちゃんも、普通の人になりたくないかな?」
「はい……朔と同じになりたいです。朔と同じ目で、同じ記憶でこの世界を見たいです」
「うん。なら、そろそろ治療を始めようか」
そうすると、先生は治療の説明をしてくれた。
3ヶ月くらいかけて桜の咲く春には治療の効果が完全に行き渡るらしい。
それはだんだんと記憶が繋がらなくなっていって、それでもいずれは普通の人と同じような記憶力になるっていうものだった。
「治療、直ぐに始めてください」
クリスマスイブの一日前、私は普通の人になる決意をした。
雪が舞ってる。
またあの日のように。
朔に出会った、両親が死んだ、あの日のように。
冬はいつまでもそこにあって、春は来なかった。
溶けない氷の中に、私はいた。



