きみの春に、溶けていく -プロローグ-

この街は雪が降る。
いつも冬の記憶は雪とともにある。

あの後、栞と綿密に作戦会議した結果、放課後に朔を学校の裏庭に呼び出した。
結局こういうベタなやつが朔みたいな男の子には一番効くんだと、栞が言うから。

「おーいあかり〜! 今行くー!」

その後聞こえる、ザッザッと雪をふみしめる音。
目を閉じても分かる朔の足音。

「さく〜っ!」

手を振って答える。
私は、ここにいるよ。
生まれてきてからのこの17年間を、その大半を占める朔の全部を大好きだという気持ちを握りしめながら覚悟を決めた。

「たく、なんでこんなとこに呼んだんだよ? そろそろ帰るぞ。俺、今日施設の食事当番なんだよ」
「……忙しいのにわざわざ呼んでごめんね。でも私、朔にどうしても言っておきたいことがあって」
「あぁ。俺も灯が好きだよ。そしてそばにいる。最初から約束してただろ。ほら寒いからすぐ帰るぞ」
「……そう私もねって。え!?」
「告白したいんだろ? でも俺からするって決めてたし。好きなんだよ。灯のこと。出会った時からずっと。両親を事故で失って、それでも希望を失わないで、雪のように冷たい目をした女の子がいた。そうやってどんなに傷ついてもまっすぐに生きる灯の全部が愛しくてたまらないんだ」
「わ、私だって。朔のこと、好きだよ。何でも知ってる。朔の大好物のスイートポテトだって私しか作れない秘伝のレシピがある。何でも覚えてる! これからもずっと一緒にいたい」
「ん。じゃあよろしく」

まさか、こんなにあっさり?!
朔に先越されるとは……
嬉しいけど、頭に上手く入ってこない。
ほんとにいいの、私で?

「でも、私は朔みたいに東大にいけないし」
「東大に行けたらなんだってんだよ。灯はそのままで十分俺の特別なんだよ」
「でも柔道で全国行けないし、泣き虫だし、朔が持ってるもの何も持って無いよ?」

ふぅ、と朔は白い息を吐く。
そして思い切り私を抱きしめて、キスをする。

「分からないなら刻んでやる。いくらでも俺の気持ち。俺の覚悟」
「ファ、ファーストキスがァ!!」
「いや、え、最初の一言がそれなの(笑)」

私は泣いた。
嬉しくてだけど。
一生、忘れたくない思い出が増えた。
朔に告白しようとしたら、告白してくれて。
ファーストキスもそのままもらわれちゃった。

2025年12月15日、夕方4時35分。放課後、裏庭。
忘れられない、忘れない。
私たちの新しい時間が刻まれ始める。