きみの春に、溶けていく -プロローグ-

私たちは児童養護施設で出会った。
お互いに両親を事故で亡くして、自分たちだけが助かったという境遇までまるきり一緒だった。

「お母さんが私のことをギューってしてくれてね、それで、ガンって車がぶつかったの。すごい音がして煙の匂いがしたよ。お母さんは頭から血が出ていてね。お母さんもお父さんのこともいっぱい呼んだけどお返事しないの。そしたらね、寝ちゃったのかなって思ったら、お母さんが手を握って『灯ちゃん、いい子ね』って笑ってまた寝ちゃった。ずっと居なくなったんだ」

ひとつ違ったのは、私の記憶は朔のと違って鮮明だったこと。
事故にあったその瞬間の記憶まで、永遠に消えることがなかったこと。
お医者さんや朔が言うには、人間って普通は辛すぎる記憶は蓋をして忘れるか、だんだん薄れていく様にできてるらしい。
だけど、1つも私は忘れられなかった。

「灯さんは忘れられない病気です。ただトラウマのように記憶するのではなく、まるでその場にいるかのように全てを記憶し、再生することができます。例えば、事故に遭った日に周りに集まった人達の顔や言葉、その横にあったなぎ倒された木の断面、そんなことさえ全てを記憶しているのです。今後も精神的なサポートが必要です」

という真面目なお医者さんの言葉さえも、記憶しているのです。薄暗い診察室、響く空調の音。困ったような、理解できないと言った顔の施設の人の顔さえ。

「それってすごいじゃん。神様からのプレゼントだよ!」

朔だけがそのままの私を信じてくれた。
まるごとすべて受け入れてくれた。

「そうかな? 朔も、神様のプレゼントあるよ」
「え、僕にも?」
「うん。優しいとこでしょ。それに世界の誰より私を信じてくれるとこ」
「それは……」

と言ったあと、朔は照れたようにほっぺたを指でかいた。
照れた時の癖。

「何……?」
「ナイショ!」

私たちはとても似ていて、いつも一緒に育った。
私にとって世界は朔を中心に回っていて、朔にとってもきっとそうだとずっと信じていた。