きみの春に、溶けていく -プロローグ-

その男の子は、手紙を読み終えると涙を拭った。
震える声で私を呼ぶ。

「灯、もう俺ーーいや僕は、君を失いたくない。……僕の方こそただ君に見合う男になりたかっただけなのに! どうして……もう言い訳さえさせてもらえない……!」

雪の中で……涙が私の頬を伝う。
口が震える、何かを思い出せそうなのに。

「あの、あの、伝えたいことがあるのに……言えないの」


その時だったーー

『おい、また寝坊か。ほんとに灯は朝弱いなぁ』

これ、なんの記憶?
とても、懐かしい、夢のカケラ。

『だからもういいって、そういう恥ずかしい過去を赤裸々にバラすな!』

そう言って本当は嬉しいくせにって思ってる。

『将来は宇宙飛行士になりたい。誰にも言うなよ。恥ずかしいから』

照れくさそうに語ってくれた、大きな夢。

勉強も運動も頑張る君の背中がどんどん遠くなって。
追いつきたいと焦る気持ちはいつの間にか、私がいない方が幸せなんじゃないかって気持ちに変わった。

「止めて! 心が、ぐちゃぐちゃなの!」

私が耳を塞ぎ目を閉じしゃがみこむと、その人は優しく包み込んでくれた。

「灯、僕は君を愛してる。君がいるから僕は生きていく。君が居るから、春が来るんだ。灯の雪は僕が溶かして、僕の雪も溶けていく。そうして二人、これからも、生きていこう?」


「……うん……!」


私は心のままに、彼を抱きしめた。
この愛しさに名前をつけるならきっと



「さ……く……?」



そういう名前だ。
抱きしめられた温もりが懐かしくて、悲しかった。



私たちは、まだ知らない春に溶けていく。


それでも名前を呼んでくれるなら、何度だってこの一瞬は永遠になる。


……To be continued