きみの春に、溶けていく -プロローグ-

「栞さん。俺が灯と帰るから。あと、今の灯はちょっと事情があって色んなことを忘れやすいとこあるから。助けてあげて」

「あ、うん、分かった。じゃあ灯、また明日ね」

そこで、綺麗な男の人が割って入って、安心したように栞はすぐ帰っていった。

「灯、もう大丈夫だよ」

「貴方は、誰ですか?」

「朔だよ。君のことを大事にしたいと思ってる」

さくーー?
名前を聞くだけで、涙がこぼれる。

「さく、朔?」

私は朔を抱きしめる。
でもなんでこの人を抱きしめているのか、もう分からない。
どんどん忘れていく。

どうして、忘れてしまったのか。
どうして、朔と出会ったのか。
涙が止まらない。

「朔、朔、朔……!」
「大丈夫、ここに居るよ。灯」

何度も名前を呼んでも、”知らない人”のように響く名前。
胸が痛む、この人が必要なんだと思う。
でも多分、これが私の求めていた世界。