柱:放課後・教室/夕暮れ


ト書き:
夕陽が差し込む教室。

瑠衣は机に頬杖をつき、ぼんやり窓の外を見ている。

廊下の向こうでは、颯真がクラスメイトと軽く笑いながら話している──その笑顔に、どこか無理があった。

友人A(そっと)「瑠衣、最近颯真くんとあんま話してなくない?」

瑠衣(小さく)「……ちょっと、考えたいことがあって。」

ト書き:
彼女は鞄を持って立ち上がる。

振り返ると、颯真がちょうどこっちを見ていた。

視線がぶつかる。

瑠衣は一瞬だけ微笑んで──そのまま目を逸らした。


颯真(小声)「……避けてる?」


柱:夜・商店街の裏道/19時過ぎ


ト書き:
人通りの少ない道を瑠衣が一人歩く。

制服の裾を風が揺らす。

彼女のスマホが震える。

画面には「颯真」の名前。

数秒迷って──拒否。


瑠衣(心の声)
「今、会ったら……ちゃんと話せない。」


ト書き:
曲がり角を抜けた瞬間、背後から聞き覚えのある声。


颯真(低く)「……なんで、出ないの。」


ト書き:
瑠衣が振り返ると、街灯の下に颯真が立っていた。

制服の上着を脱いで肩にかけ、息を荒げている。

目は笑っていなかった。


瑠衣(少し怯えながら)「颯真……どうしてここに?」

颯真(静かに)「家の近くだから。
……お前、最近ずっと避けてるだろ。」

瑠衣(落ち着かせようと)「違うの。ちょっと時間を──」

颯真(遮って)「時間なんていらない。
俺、もう十分待っただろ?」


ト書き:
一歩、また一歩と距離を詰める颯真。

瑠衣は思わず後ずさる。


瑠衣(震える声で)「颯真、落ち着いて。
私、あなたが怖いなんて思いたくないの。」

颯真(苦笑して)「怖い?俺が?」


ト書き:
颯真は一瞬、悲しそうに笑う。

次の瞬間、彼の腕が瑠衣の肩をつかんだ。

颯真(かすれた声で)「なぁ……俺、そんなに間違ってるのか?」

瑠衣(涙をこらえて)「間違ってる……よ。
“守る”って、閉じ込めることじゃないよ。」


ト書き:
颯真の手がゆっくりと離れる。

代わりにその指先が震える。


颯真「……ごめん。
お前に触れると、どうしても……壊しそうになる。」


ト書き:
瑠衣は黙って首を振り、背を向けて歩き出す。

颯真はその背中を、ただ見送るしかなかった。


柱:夜・瑠衣の部屋/深夜


ト書き:
机の上には開きっぱなしのノート。

“どうしたら、彼を信じていられるんだろう”という文字が滲んでいる。


瑠衣(モノローグ)
「颯真の優しさが、彼自身を傷つけてる。
……それを止められるのは、きっと私しかいない。」


ト書き:
スマホの画面にメッセージが届く。

《明日、ちゃんと話したい。逃げないでほしい。》


瑠衣(小さく息を吐く)「逃げたくない。……でも、怖いよ。」


柱:翌朝・校門前/朝


ト書き:
朝の校門。

颯真はポケットに手を突っ込み、瑠衣を待っている。

目の下には隈。眠れなかったのがわかる。

遠くから、瑠衣の姿。

二人の距離はゆっくりと近づいて──止まる。

颯真(静かに)「今日こそ、ちゃんと話そう。
……俺の気持ちも、全部。」

瑠衣(真っ直ぐ見返し)「私も、ちゃんと伝える。
颯真を“好き”でいるために、必要なことを。」

ト書き:
互いに目を逸らさず見つめ合う。

それは、壊れかけた絆の再構築への始まり──

けれど、二人がまだ知らない“過去”が、このあと静かに影を落とす。