柱:昼休み・校舎裏/昼


ト書き:
人気のない校舎裏。風が吹き抜けるたび、古いフェンスがカタカタと鳴る。

颯真は壁にもたれ、腕を組んで空を見上げていた。

その前に立つのは、同じクラスの男子・高橋。

先日、瑠衣にしつこく話しかけていた相手だ。


高橋(挑発的に)「別にいいだろ。俺、あいつとちょっと話しただけじゃん。」

颯真(低く)「“あいつ”って言うな。名前で呼ぶな。」

高橋(鼻で笑い)「お前こそ何様だよ。瑠衣ちゃんの彼氏でも──」

ト書き:
その瞬間、颯真の拳が高橋の胸ぐらをつかむ。

金属フェンスが大きな音を立てて揺れる。


颯真(怒りを抑えた声で)「……二度と、あいつに近づくな。」

高橋(苦しそうに)「っ、放せよ!お前、頭おかしいのかよ!」

ト書き:
颯真は手を離し、静かに睨みつける。
その目は冷たく、恐ろしいほど無表情だった。


柱:教室/放課後


ト書き:
ざわめく教室。

「校舎裏で喧嘩あったらしい」という噂が広がる。

瑠衣は不安げに周りの声を聞いている。

友人A「ねぇ、颯真くんってさ、あの喧嘩の人じゃない?」

瑠衣(小さく)「……颯真が?」

ト書き:
瑠衣はカバンをつかんで立ち上がる。

教室を飛び出し、昇降口へ走る。


柱:昇降口裏/夕方


ト書き:
校舎裏の階段下。

壁にもたれて座り込む颯真。

手には擦り傷、唇の端から血が滲んでいる。


瑠衣(息を切らしながら)「颯真……!何やってるの!?」

颯真(視線を逸らし)「……お前に近づく奴、うざかったから。」

瑠衣(怒りと涙が混ざった声で)「どうして、そんなことするの……!守るって、殴ることじゃないよ!」


ト書き:
瑠衣の目に涙が滲む。

颯真は俯き、拳を握る。


颯真「……あいつ、変なこと言ってた。“瑠衣はお前のこと同情で見てる”って。」

瑠衣(目を見開く)「そんなこと、言われたからって──!」

颯真(かすかに震えながら)「でも、そうかもしれねぇって思ったんだよ……俺、お前に何も返せてねぇし。」


ト書き:
瑠衣はゆっくりと膝を折り、彼の隣に座る。

ハンカチで彼の手の傷を包む。

瑠衣(静かに)「颯真。私が一緒にいるのは、同情なんかじゃない。
ずっと、あなたが頑張ってきたのを知ってるから。」

颯真(目を伏せて)「……優しいな。そうやって、俺を許すの?」

瑠衣「許してるわけじゃない。
でもね、颯真。私、あなたが誰かを傷つける姿は見たくないの。」


ト書き:
しばらく沈黙。

遠くでチャイムが鳴る。

颯真はゆっくり立ち上がり、彼女を見下ろす。


颯真「……ごめん。
でも、俺にはもう、お前しかいないんだ。」

ト書き:
その声はかすれ、まるで自分に言い聞かせているようだった。


柱:夜・瑠衣の部屋/後


ト書き:
瑠衣はベッドの上で、包帯を巻いた彼の手を思い出すように見つめる。

机の上には、あの日の写真──幼い颯真と、自分。


瑠衣(モノローグ)
「“守る”って言葉が、颯真を縛ってる。
私の優しさも、きっと、彼を苦しめてるんだ……。」


ト書き:
画面がゆっくり暗転。

携帯の通知音が静かに鳴る。


新着メッセージ:“ごめん。もう誰にも手出させないから。”

瑠衣(心の声)
「──それが一番怖いの。」