柱:放課後・校門前/夕暮れ


ト書き:
オレンジ色の光が長く影を伸ばす。
瑠衣は友人たちと笑いながら帰る途中、校門の外で待つ颯真の姿に気づく。
制服のポケットに手を入れ、無表情で立っている。

友人A「え、あの人、待ってるの瑠衣?」

瑠衣(苦笑い)「たぶん……幼なじみ、だから。」

友人B(ひそひそ)「なんか、雰囲気ちょっと怖いね。」


ト書き:
友人たちが気を遣って先に行く。
瑠衣はゆっくりと颯真のもとへ歩み寄る。

瑠衣「……迎え、ありがとう。でも言ってくれれば、一緒に帰ったのに。」

颯真(短く)「待ってた。」

瑠衣「……そっか。」


ト書き:
沈黙。街の喧騒が遠のく。
颯真が一歩近づき、瑠衣の髪を指先でそっと払う。

颯真「……あいつら、よく話しかけてくるな。」

瑠衣(少し戸惑い)「あいつらって……友達のこと?」

颯真「男の方。笑って話してたろ。」

瑠衣(苦笑)「ただのクラスメイトだよ。誤解だってば。」

颯真(目を伏せ)「誤解、ならいい。」


ト書き:
その声は小さく、けれど確かに棘を含んでいた。
瑠衣は息を整えながら微笑む。

瑠衣「ねえ、颯真。私ね、颯真が変わったの、悪いことじゃないと思う。
でも……強くなるのって、誰かを守るためだけじゃないと思うの。」

颯真(少し黙って)「……お前は、優しすぎるんだよ。」

瑠衣「優しいって言葉で、何でも許せるわけじゃないよ。」


ト書き:
風が吹き、桜の花びらが二人の間を横切る。
颯真は視線を落とし、拳を強く握りしめた。


柱:夜・コンビニ前/帰り道


ト書き:
並んで歩くふたり。
道端のコンビニの灯りが、ふたりの影をゆらめかせる。

瑠衣「……ねえ、颯真。今、楽しい?」

颯真「楽しいよ。お前と一緒にいられるから。」

瑠衣「そうじゃなくて。“自分の時間”って、ある?」


ト書き:
颯真が足を止める。
一瞬、表情が固まる。

颯真「俺の時間は、全部お前に使いたい。」

瑠衣(苦笑い)「……それ、少し重い言葉だよ。」

颯真「重くてもいい。お前のいない時間なんて、いらない。」


ト書き:
瑠衣は静かに視線を落とす。
颯真の手が伸びるが、彼女はそっと避けた。

瑠衣「……ごめん。今日は、ここで帰るね。」

ト書き:
颯真は立ち尽くす。
去っていく瑠衣の背中を、目で追いながら呟く。

颯真(小声)「……どうしたら、俺を見てくれる?」


柱:夜・瑠衣の部屋/後


ト書き:
机にノートを広げる瑠衣。
開いたページには、幼い頃の写真。
泥だらけの少年──笑う颯真と、手を繋ぐ小さな自分。

瑠衣(モノローグ)
「“守る”って、こんなことだったかな……。
あの頃の颯真は、もっと優しかったのに。」

ト書き:
窓の外、風がカーテンを揺らす。
その下に、瑠衣のスマホが小さく震えた。
画面には──「颯真」からの未読メッセージが十数件並んでいた。