柱:文化祭・体育館ステージ/午後


ト書き:
照明がステージを照らす。

ざわつく観客席。

舞台袖では、瑠衣が深呼吸をしていた。

胸の奥が高鳴る。

手には、自分で書いた脚本の台本。


瑠衣(心の声)
「この物語は“架空”じゃない。
全部、私の気持ち。」


ト書き:
幕の隙間から客席を覗くと──

最前列、真っ直ぐに瑠衣を見つめる颯真の姿。

彼の視線が、静かに力をくれる。


友人・香苗(小声で)「瑠衣、準備いい?」

瑠衣(小さく頷いて)「うん。……行く。」


柱:舞台上・開幕


ト書き:
舞台は「罪を抱えた少年と、それを信じ続ける少女」の物語。

瑠衣が演じるのは、過去に囚われた少年に“光”を見せようとする少女。


瑠衣(演技として)
「──あなたがどんなに傷ついても、私の世界はあなたの隣にあるの。
誰が何を言っても、私は信じてる。」


ト書き:
その声に、観客が息をのむ。

彼女の瞳には涙が浮かび、声は震えている。

だが、確かに届いていた。

客席の颯真の胸に。


瑠衣(演技を超えて)
「あなたが“守る”と言ったあの日、
私は“一緒に生きる”って決めたの。
だから、もう逃げないで。
……私が、あなたを救うから。」


ト書き:
沈黙。

観客も演者も、時が止まったように見つめる。

そして──舞台の脇で、突然のアドリブが起きた。


颯真(小声で)「……それ、台本にあったか?」


ト書き:
舞台袖から現れた颯真。

出演者ではない。

でも、彼は真っ直ぐに瑠衣へ歩み寄る。
体育館全体がどよめく。


教師の声(遠くから)「風間!何してる!」

ト書き:
しかし、颯真は止まらない。

舞台の中央で立ち止まり、
瑠衣を見つめ、マイクを奪うようにして言った。


颯真(はっきりと)「俺も逃げない。
この世界で、俺を信じてくれたのは──お前だけだったから。」


ト書き:
瑠衣が涙をこぼす。

観客席が静まり返る。

颯真はゆっくりと続けた。


颯真「俺、間違ってた。
守るって言葉に隠れて、弱さを隠してた。
でも今は言える。
“お前と一緒に生きたい”。
それだけは、嘘じゃねぇ。」


ト書き:
瑠衣が震える唇で、そっと答える。


瑠衣(涙声で)「……ありがとう。
やっと言えたね。」


ト書き:
その瞬間、観客席から拍手が起こる。

教師たちも止めるのを忘れて見入っている。

照明の光がふたりを包み、
まるで舞台が“現実の告白の場”に変わったかのようだった。


瑠衣(小声で)「颯真……舞台、壊しちゃったね。」

颯真(微笑んで)「いいじゃん。台本より、本音の方がかっこいいだろ。」


ト書き:
ふたりの笑顔に、拍手がさらに大きくなる。

幕がゆっくり下がる。


柱:舞台裏・カーテンの陰


ト書き:
幕の裏で、瑠衣がそっと息を整える。

颯真が隣に立ち、手を差し出す。


颯真「ありがとう。
俺、ようやく“言葉”でお前を抱きしめられた気がする。」

瑠衣(微笑んで)「……私も。」


ト書き:
ふたりの手が静かに重なる。

その指先は、未来へ続く約束のように温かかった。