柱:職員室・放課後


ト書き:
夕陽が差し込む職員室。

緊張した空気の中、教師たちが向かい合う。

中央には、並んで立つ颯真と瑠衣。

静かに見守る蓮の姿も、後ろのドア近くにあった。


担任・田村「風間、君が校外で暴力をふるった件について、再調査の必要がある。
それから──桜井、お前もだ。SNSに投稿された写真の件で、説明をしてもらう。」

瑠衣(落ち着いた声で)「あの写真は、私が撮られたものです。
でも、あの時私は彼を“助けに行っただけ”です。」

別の教師「だとしても、生徒同士が夜にあんな場所で──」


ト書き:
教師の声を遮るように、颯真が一歩前へ出た。


颯真(強い声で)「責任は全部、俺にあります。
あの場所に行こうって言ったのも、俺です。
瑠衣は、俺を止めに来ただけなんです。」


ト書き:
職員室の空気がざわめく。

颯真の拳が震えている。

だが、彼の瞳にはもう怯えはない。


校長「……では、SNSに写真を投稿した人物は?」


ト書き:
沈黙。

その中で、蓮がゆっくりと前へ出た。


蓮(低い声で)「……俺です。」


ト書き:
一瞬、空気が止まる。

瑠衣も颯真も、目を見開いた。


田村「どういうことだ、蓮?」

蓮(俯きながら)「あの夜、颯真を探してた。
でも──あの光景を見て、頭が真っ白になった。
“また、俺を置いていくのか”って思って……気づいたら、投稿してた。」


ト書き:
蓮の手が震えている。

その表情には後悔がにじむ。


蓮(続けて)「けど、間違いだった。
あれで誰かを救えると思ったのに……余計に傷つけただけだった。」

颯真(低く)「……お前、俺を憎んでたのか?」

蓮「違う。
羨ましかったんだ。
“誰かのために強くなれた”お前が。」


ト書き:
颯真がゆっくりと近づく。

教師たちは息をのむ。

しかし──彼は、蓮の肩に手を置いた。


颯真(静かに)「……もう、責めねぇよ。
俺も、自分のことで精一杯だった。」


ト書き:
瑠衣がその二人を見つめ、そっと口を開く。


瑠衣「蓮くん。
私たち、過去をやり直すことはできないけど、
“これから”を変えることはできると思う。」


ト書き:
瑠衣の言葉に、蓮はゆっくりと顔を上げる。

目尻が少しだけ赤くなっていた。


柱:校舎裏・夜/下校後


ト書き:
学校を出た三人。

夕闇が降りる校舎裏に、かすかな虫の音。


蓮「……明日、SNSの投稿、俺から全部消す。
ちゃんと説明も載せる。
“誤解だった”って。」

颯真「ありがとな。」


ト書き:
蓮が笑い、背を向ける。


蓮(去り際に)「なぁ、颯真──
お前は、瑠衣をちゃんと“信じられる男”になれよ。」

颯真(少し笑って)「……あぁ。」


柱:屋上・夜風の下


ト書き:
瑠衣と颯真、ふたりだけの屋上。

星が瞬き、街の明かりが遠くに見える。


瑠衣(小さく)「……全部終わったね。」

颯真「いや、これからだ。
俺はまだ、“守られる側”から抜け出せてねぇ。」

瑠衣(優しく)「そんなことない。
あなたはもう、ちゃんと“誰かのため”じゃなく、“自分の意志”で戦えてる。」


ト書き:
瑠衣がそっと颯真の胸に触れる。

心臓の鼓動が静かに伝わる。


颯真(呟くように)「なぁ……もし、また俺が道を間違えそうになったら──」

瑠衣(微笑んで)「その時は、私が叱るよ。
“颯真、あなたはそんな人じゃない”って。」


ト書き:
風が二人の間を通り抜け、髪を揺らす。

颯真が少し照れながら、彼女の頬を包み込む。


颯真(低く)「……もう、絶対に離さない。」

瑠衣(涙をこらえて)「離れないよ。」


ト書き:
ふたりの影が、屋上の床で重なる。

遠くで、花火の音がひとつ、夜空に響いた。