柱:翌朝・高校の正門前


ト書き:
朝の光が眩しい。

通学路にはざわめく生徒たちの声。

颯真がゆっくりと正門をくぐる。

制服は少しよれ、表情は固いが、瞳は確かに前を見ていた。


颯真(心の声)
「逃げねぇ。瑠衣が泣いてまで言ってくれたんだ。
……俺が向き合うのは、もう“過去”じゃねぇ。」


ト書き:
生徒たちの視線が、一斉に颯真に向く。

小声で囁き、スマホを向ける者もいる。

その中を、颯真は無言で通り抜けた。


男子生徒A(小声)「マジで戻ってきたよ、あいつ……」

女子生徒B「停学になっても、瑠衣ちゃん守ったって話、本当?」

男子生徒C(鼻で笑って)「守った?暴力の間違いだろ」


ト書き:
その瞬間、颯真が立ち止まり、視線を向ける。

目が合った男子たちは一瞬たじろぎ、口を閉ざす。



柱:教室・朝のHR前


ト書き:
颯真が教室に入ると、ざわめきが広がる。

教壇に立つ担任が一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに平静を装う。


担任「……戻ってきたな、風間。
今日からまたクラスに復帰だ。」

颯真(軽く頭を下げて)「……よろしくお願いします。」


ト書き:
教室の奥。

瑠衣がそっと息を呑む。

視線が合った瞬間、二人の間に微かな笑みが交わる。


柱:昼休み・屋上


ト書き:
風が吹き抜ける屋上。

フェンスの向こう、青空がどこまでも広がる。


瑠衣(心の声)
「やっと……戻ってきたんだね。」


ト書き:
瑠衣が手すりに寄りかかっていると、背後から足音。

振り返ると颯真が立っていた。


颯真「ここ、まだ鍵、かかってなかったんだな。」

瑠衣(微笑んで)「先生には“風通しが大事”って言ったの。」


ト書き:
ふたり、少し照れくさそうに笑う。

そして静寂。

風の音だけが響く。


颯真(真剣な声で)「……俺、また瑠衣を巻き込んだ。」

瑠衣「巻き込まれたんじゃないよ。
私は、自分であなたのそばにいたいって決めたの。」

颯真「でも、あの写真──」


ト書き:
颯真がスマホを取り出す。

画面にはSNSに拡散された1枚の画像。

“廃ビルで、瑠衣が颯真を抱きしめている”写真。

キャプションには「停学中に密会?」の文字。


瑠衣(顔をしかめて)「……誰が、こんなこと」

颯真(低く)「多分、あの日、見てたやつがいる。
もう“ただの噂”じゃ済まねぇ。」


ト書き:
瑠衣は颯真の手からスマホを取り上げ、真っ直ぐに見つめる。


瑠衣「いいよ。
“噂”でも、“誤解”でも。
私は、あなたを信じる。」

颯真(驚いたように)「……簡単に言うなよ。
この先、また傷つくぞ。」

瑠衣(静かに)「怖いのは、あなたがいなくなることだけ。」


ト書き:
その言葉に、颯真の心が揺れる。

目を逸らし、拳を握る。


颯真「俺、強くなる。
もう“守る”んじゃなく、“支える”ために。」

瑠衣(微笑んで)「うん。私も、“守られる”だけの子じゃいない。」


ト書き:
ふたりの距離が近づく。

ほんの数センチの間に、風が通り抜ける。

颯真がそっと手を伸ばし、瑠衣の頬に触れる。


颯真(小さく)「……やっぱり、俺、瑠衣が好きだ。」

瑠衣(涙をこらえて)「知ってた。」


ト書き:
その瞬間、校内放送が響く。


校内放送「3年A組、風間颯真・桜井瑠衣、職員室まで来なさい。」

ト書き:
ふたり、目を合わせる。

小さく息を呑み、同時に頷く。


瑠衣(心の声)
「どんな形でもいい。
あなたと一緒に立ち向かいたい。」


柱:職員室前・静寂


ト書き:
ドアの向こうから、教師たちのざわめきが聞こえる。

颯真は拳を握りしめ、瑠衣をちらりと見る。

彼女は微笑んで頷いた。


颯真(心の声)
「もう逃げねぇ。
俺は、こいつと“同じ未来”を選ぶ。」

ト書き:
ふたりが同時にドアを開ける。

その音が、まるで新しい物語の幕開けのように響いた。