柱:放課後・校舎裏/夕暮れ


ト書き:
朱色の空の下、瑠衣は一人で校舎裏に立っている。

颯真が最後に姿を見せた場所。

風に吹かれた髪が頬にかかるたび、胸が痛む。


瑠衣(心の声)
「颯真は、どこにいるの……。
あの時の“守る”って約束、壊したくない。」


ト書き:
その時──背後から声。


???(落ち着いた声)「探してるの、颯真のこと?」

ト書き:
振り返ると、そこに立っていたのは背の高い男子。

少し不良っぽい雰囲気。

彼の左耳には小さなピアス。

冷たい目の奥に、わずかな後悔が見える。


瑠衣「……あなたが、“蓮(れん)”?」

蓮(ポケットに手を突っ込みながら)「あぁ。あいつの昔の親友──だった、って言うべきか。」


柱:公園のベンチ/夜


ト書き:
薄暗い街灯の下。

瑠衣と蓮が並んで座る。

蝉の声が遠くで鳴いている。


蓮「颯真、あの頃からお前に惹かれてた。
でも、自分が弱いの知ってたから、誰よりも強くなりたがってた。」

瑠衣(静かに)「強くなることが、彼を壊したの?」

蓮(少し笑って)「……壊したのは、俺だよ。」


ト書き:
蓮は煙草を取り出すが、火をつけずに握りしめる。

蓮「中学の頃、いじめられてた颯真を、最初は俺が守ってた。
でも途中で怖くなって──あいつを庇うのをやめた。
その日から、颯真は変わった。『誰も頼らねぇ』って。」

瑠衣(目を伏せて)「……“守る”って言葉、彼にとっては痛みなんだね。」

蓮(頷いて)「今、あいつ、“誰も近づけない場所”にいる。
お前が行くなら、本気で止める覚悟しとけ。」

瑠衣(真っ直ぐに)「それでも行く。
颯真を置いていけない。」


ト書き:
その言葉に、蓮は目を見開く。

そして、わずかに笑った。


蓮「……やっぱりお前、あいつの光だな。
場所、教えるよ。」


柱:夜・廃ビル前/21時過ぎ


ト書き:
街外れの工場跡地。

「立入禁止」のテープが風に揺れる。

瑠衣と蓮は懐中電灯を手に、静かに足を踏み入れる。


瑠衣(小声で)「……ここに、颯真が?」

蓮「あぁ。俺が最後に会ったのは3日前。
“もう誰にも迷惑かけねぇ”って言ってた。」


ト書き:
暗闇の奥、かすかに光。

その先に──膝を抱えて座り込む颯真の姿。

制服のシャツは汚れ、手には小さな傷跡。


瑠衣(息を呑んで)「颯真……!」

ト書き:
颯真が顔を上げる。

その瞳は疲れ切って、けれど瑠衣を見つけた瞬間、微かに揺れた。


颯真(低く)「……来るなって言ったのに。」

瑠衣(涙ぐんで)「言ってないよ。
“逃げないで”って、あなたが言った。」

颯真「……俺がいない方が、お前は幸せだ。」

瑠衣(首を振り)「違う。あなたがいないと、私の世界が半分消えるの。」


ト書き:
瑠衣の言葉に、颯真の表情が一瞬だけ崩れる。

しかしすぐに、笑うように顔を伏せた。


颯真「俺、殴った奴に怪我させた。
停学で済んでるけど、もうすぐ警察沙汰だってさ。
そんな俺に、“好き”って言えるのかよ。」

瑠衣(涙をこらえて)「言える。
だって、颯真が誰かを殴ったのは、私を守るためだったんでしょ?」

颯真(顔を上げて)「……守る理由があれば、何をしてもいいのか?」

瑠衣「違う。でも、理由も知らずに責めることは、もっと違う。」


ト書き:
沈黙。

瑠衣は颯真の前に膝をつき、ゆっくりと手を伸ばす。


瑠衣(震える声で)「颯真。
あなたの痛みを、私に分けて。」


ト書き:
颯真はその手を見つめる。

躊躇のあと、そっと掴んだ。

その瞬間、堰を切ったように涙が頬を伝う。


颯真(絞り出すように)「もう、誰も傷つけたくない……でも、どうしたらいいかわかんねぇんだよ……!」

瑠衣(抱きしめながら)「大丈夫。
一緒に考えよう。あなたはもう一人じゃない。」


ト書き:
蓮が少し離れた場所でその様子を見ていた。

小さく呟く。


蓮(心の声)
「……やっと、あいつに“救われる権利”が来たんだな。」