柱:朝・教室/翌週


ト書き:
颯真が停学になってから、一週間。

瑠衣の席の隣は、空っぽのまま。

彼の机の上には落書きが増え、
「暴力男」「DV予備軍」──そんな言葉が黒く刻まれていた。


友人A(心配そうに)「瑠衣、大丈夫?……颯真くんのこと、まだ……」

瑠衣(かすかに微笑んで)「うん。信じてる。
颯真は、そんな人じゃない。」


ト書き:
彼女の言葉に、周囲は静まり返る。

その目は冷ややかで、瑠衣の“信じる”という強さを理解できないようだった。



柱:夕方・川沿いの道


ト書き:
放課後。

瑠衣は颯真の家の方向に足を向ける。

夕焼けが水面を赤く染める。

風に乗って、昔の記憶が蘇る。


柱:回想・中学二年の放課後/校庭裏


ト書き:
まだ中学生の颯真。

痩せた体に、制服の裾が大きく揺れる。

数人の男子に囲まれ、殴られていた。


男子A「お前、きもいんだよ。“瑠衣のこと好き”とか、笑わせんな。」

颯真(うつむいて)「……好きになっちゃ、いけないのかよ。」

男子B(蹴りながら)「いけねーよ、釣り合わねぇんだよ!」


ト書き:
そのとき、瑠衣が駆け寄ってくる。

小さな手で颯真の前に立ちふさがり、涙をこぼす。


瑠衣(泣きながら)「やめて!颯真をいじめないで!」

男子たち(嘲笑いながら)「庇ってやるとか、マジで付き合ってんの?」


ト書き:
男子たちは逃げるように去っていく。

残された二人。

泥だらけの手で、瑠衣が颯真を抱きしめる。


瑠衣(震えながら)「颯真は、私が守るから。」

颯真(小さく)「……俺が、守るんだ。瑠衣を。絶対。」


ト書き:
その約束が、彼の心に深く刻まれた。

“守る=支配”の始まり。



柱:現在・颯真の家の前/夕方


ト書き:
古びたアパートの一室。

ドアの前で立ち尽くす瑠衣。

ノックをしても返事はない。

郵便受けには新聞と手紙がたまっている。


瑠衣(心の声)
「……颯真、どこにいるの?」

ト書き:
その時、階段の下から年配の女性が声をかける。


近所の女性「あんた、颯真くんの友達?あの子ね、今週ずっと帰ってきてないよ。」

瑠衣(驚いて)「えっ……!」


柱:夜・河川敷の公園


ト書き:
薄暗いベンチ。

その上に、颯真の上着が置かれている。

スマホの画面には、見覚えのあるメッセージアプリ。

“俺なんかが瑠衣を守る資格、なかったのかもな。”


瑠衣(泣きそうになりながら)「違うよ……!颯真は、守る資格、ある!」

ト書き:
風が吹き、木々の葉がざわめく。

その中で、遠くに人影。

フードをかぶった誰かが、瑠衣の方をじっと見ていた。

瑠衣(振り向いて)「……誰?」


ト書き:
しかし、その影はすぐに消える。

代わりに、ベンチに一枚の紙切れが落ちていた。

瑠衣(拾い上げて)「これ……颯真の字?」
「彼女が俺を壊した」


ト書き:
その言葉が、瑠衣の心を冷たく締めつける。

泣きそうな表情のまま、彼女は空を見上げた。

瑠衣(心の声)
「颯真……お願い。あなたが私を守りたいって思ったように、
今度は私があなたを見つけに行く。」


柱:翌日・学校の屋上/昼


ト書き:
風が強い昼下がり。

瑠衣は屋上の柵の前に立っていた。

ポケットから携帯を取り出し、誰かに電話をかける。


瑠衣「……ねぇ、前に颯真と仲良かった子。あの“元親友”って呼ばれてた人、今どこにいるか知ってる?」

電話の相手(沈黙の後)「……もしかして、颯真を探してるの?」

瑠衣「うん。彼が、自分を責めすぎてる。」

相手(低く)「だったら──止めな。
あいつ、もう“昔の颯真”じゃない。」


ト書き:
風が吹き荒れ、電話が切れる。

瑠衣の目が揺れる。