柱:朝・校門前/登校時間


ト書き:
いつもの朝。

校門の前で颯真と瑠衣が向き合っていた。

昨日よりは落ち着いている二人。けれど、空気はまだ少しぎこちない。


颯真(小さく)「……昨日、ごめんな。変なこと言って。」

瑠衣(微笑んで)「私も。怖がってごめん。」

颯真(目を伏せて)「怖がらせたのは俺だから。」


ト書き:
穏やかな空気が少しだけ戻る。

そのとき、背後から男子のざわめきが響く。


男子A「おい見たか!?これヤバくね?」

男子B「これ颯真じゃね?」


ト書き:
スマホの画面に映るのは、校舎裏で誰かを殴る颯真の姿。

動画はSNSの匿名アカウントに投稿され、すでに数百のコメントがついている。


瑠衣(息を呑んで)「……これ、いつの……?」

颯真(眉をひそめ)「昨日の、だ。」


ト書き:
教室中がざわめきに包まれる。

「暴力」「ヤンキー」「やっぱりあいつ危ない」──そんな囁きが、教室を刺す。

颯真は何も言わず、拳を握りしめて席に座る。


瑠衣(心の声)
「どうしよう……颯真は悪い人じゃないのに。
誰よりも優しいのに。」


柱:放課後・生徒指導室前


ト書き:
放課後。

生徒指導の先生に呼び出された颯真が、部屋に入っていく。

瑠衣は廊下の隅で待つ。

閉ざされたドアの向こうから、低い怒鳴り声が漏れる。


先生の声(中から)「暴力は暴力だ!事情なんて関係ない!」

颯真の声(押し殺して)「……わかってます。」


ト書き:
数分後。

ドアが開き、颯真が出てくる。

彼の目は少し赤く、唇が震えていた。


瑠衣(駆け寄って)「颯真、大丈夫?」

颯真(乾いた笑い)「停学、一週間。……“殴られたやつの親が学校に怒鳴り込んだ”って。」


ト書き:
瑠衣の胸が締めつけられる。

颯真はポケットからスマホを取り出し、画面を見せた。

そこには、動画を投稿したアカウント──「@rui_love_xx」。


瑠衣(凍りつく)「……え?」

颯真(静かに)「偶然だと思いたいけど……お前の名前、入ってる。」

瑠衣「ち、違う!そんなの私じゃない!」

颯真(自嘲気味に笑って)「わかってる。けど……みんな、そう思ってない。」


ト書き:
廊下の奥から、クラスメイトたちの視線。

「裏切ったらしい」「あの子が動画流したって」──そんな声が刺さる。


瑠衣(震える声で)「颯真、信じて。私は──」

颯真(遮って)「信じてる。
……でも、俺よりお前のほうが傷つくかもな。」


ト書き:
そう言って、颯真は背を向け、昇降口の方へ歩いていく。

瑠衣はその背中を追えず、ただ立ち尽くす。


柱:夜・瑠衣の部屋/23時


ト書き:
机の上。

SNSの通知が鳴り止まない。

「裏切り女」「暴力男の彼女」「偽善者」──そんな言葉が、画面に並ぶ。

瑠衣は携帯を伏せ、顔を覆う。


瑠衣(心の声)
「どうして……誰がこんなことを……。」

ト書き:
ふと、机の上の写真立てが倒れる。

そこには、幼い日の瑠衣と颯真──

“ずっと守ってね”と笑っている少女の姿があった。


瑠衣(涙をこぼしながら)「……ごめんね、颯真。
あなたの“守りたい”を、壊してるのは私かもしれない。」


柱:同時刻・颯真の部屋/夜


ト書き:
薄暗い部屋。

机の上にはスマホ。

そこに届いた新しいDM。

《彼女、あの時笑ってたよ。
“これで終わりだね”って。》


ト書き:
画面の送り主は不明。

しかし、その言葉が颯真の中に黒い感情を落とす。


颯真(心の声)
「瑠衣が……そんなこと言うはずない。
……でも、もし本当に──」

ト書き:
拳を握る音。

その拳の震えが、怒りなのか、悲しみなのかは誰にもわからない。