──桜の花びらが舞う中、誰かの声が聞こえた。

“もう一度、君に会いたい”

懐かしいような、悲しいような声。

目を開けると、
私はベッドの上にいた。

天井の模様、差し込む朝の光。

いつもの部屋。

けれど、胸の奥が妙にざわついている。

「……夢?」

そう呟くと、掌に“冷たい感触”が残っているのに気づいた。

手を開く。

そこには、小さな桜の花びら。

昨夜は雨だったはず。

窓は閉めたままなのに。

心臓が早鐘を打つ。

“あの場所”の風の匂いが、かすかに残っていた。

そして――脳裏に一瞬、映像が走る。

止まった懐中時計。

午後五時四十分。

「なんで来たんだよ!」と叫んだ彼の顔。

……柊くん。

なぜ、あの名前を思い出しただけで涙が出るんだろう。

ふと、机の上の時計を見る。

針はゆっくりと、午後五時三十九分を指していた。

その瞬間、カーテンの隙間から光が差し込み、
外から、かすかに学校のチャイムが聞こえた。

私は思わずつぶやいた。

「……もうすぐ、四十分。」

そして、胸の奥で何かが囁いた。

――今度こそ、変えなきゃ。