放課後。



夕焼けが校舎のガラス窓をオレンジ色に染めていた。


教室にはもう誰もいない。


私はひとり、窓際の席で風に揺れるカーテンを眺めていた。

「水瀬さん、まだ残ってたんだ」

振り向くと、柊くんが立っていた。


朝の転校のときよりも、ずっと静かな声だった。

「うん……ちょっとノートを写してて」

そう答えると、彼は小さくうなずいた。


カーテンがふわりと舞い上がる。


その瞬間、彼の指先に光が反射して、小さな懐中時計が見えた。
古びているのに、不思議なほどきれいだった。


「それ……時計?」


「うん。止まったままなんだ。三月二十五日の、午後五時四十分で。」

私は何気なく、その時刻を心の中で繰り返した。




──三月二十五日。


なぜか、胸の奥が痛くなる。


どこかで聞いたことのある日付。

蓮は少し視線を落とし、
まるで独り言のように言った。


「君は……あの日のこと、覚えてないよな」