まぶしい光が消えたとき、
私は屋上に立っていた。

風が頬をなでる。

制服の袖を握ると、温かい。

——生きている。

地面にはひとひらの桜の花びら。

それを拾い上げた瞬間、記憶がよみがえった。

何度もくり返した時間。

蓮くんの涙。

そして最後に見た、あの笑顔。

「……蓮くん?」

静かな校庭を見渡す。

誰もいない。

でも、不思議と寂しくなかった。

風にのって、声が聞こえた。

「今度こそ、笑って——」
私は小さく笑った。

「うん、ちゃんと笑うよ。」

その瞬間、背後から足音がした。

「……探した。」

振り向くと、蓮くんがいた。

少しだけ息を切らして、それでも優しく笑っていた。

「時間が……動いたんだ。」

「うん。今度は、止まらなかった。」

沈黙のあと、彼が小さく呟く。

「もう、繰り返さなくていいんだね。」

「うん。これからは、前に進む時間だよ。」

桜の花が、ふたりの間に舞う。

光の粒のように、空へと溶けていく。

私は彼の手を握った。

もう二度と、離さないように。

——この手のぬくもりがある限り、私は何度でも未来を信じられる。


校庭のチャイムが鳴った。


新しい時間の、はじまりを告げるように。

「おはよう、蓮くん。」

「ああ。——おはよう、あかり。」

春が、ふたりの上に降り注いだ。



Fin…