鳥の声で目が覚めた。

見慣れた天井、同じ光。

カーテンの隙間から差し込む春の陽射し――

すべてが、前に見た“あの日”と同じだった。

時計は、午前七時三十二分。

胸の鼓動が早くなる。

「……また、戻ったんだ」

鏡に映る自分の顔は、涙の跡が残っていた。

でも、不思議と怖くなかった。

今度はひとりじゃない。

蓮くんも、同じ時間にいる。

それがわかるだけで、心が強くなれた気がした。

通学路の桜並木を歩く。

風が吹き抜けて、花びらが舞う。

同じ光景なのに、今日は少し違って見えた。

「水瀬さん!」

振り向くと、蓮くんが走ってきた。

息を切らしながら、それでも笑っていた。

「やっぱり……戻ってた」

「うん。でも今度は、怖くない」

彼は小さく頷いた。

その目に、何度も繰り返した痛みと、
それを超えるほどの“決意”が宿っていた。

「放課後、屋上で会おう。
 ……あの日の時間になる前に、全部終わらせよう」

私はその手を握った。

何が起きても、もう離さないと決めた。



放課後。

空は曇りがかっていた。

遠くで雷のような音が鳴り、風が強くなる。

「時間が崩れ始めてる……」と蓮くんが呟いた。

校庭の桜の花びらが逆風に舞い上がり、
まるで世界そのものが震えているみたいだった。

「行かないで、あかり」

その声に、涙が滲む。

でも、私は静かに首を振った。

「もう逃げない。
 この時間を終わらせるのは、私の選択だから」

彼が何か言おうとした瞬間、
雷鳴のような轟音が響き、空が白く裂けた。

視界が光に包まれる。

その中で、私は彼の声を聞いた。

「今度こそ、笑って――」
そして、時間が動いた。