夜の公園には、まだ花びらが少しだけ残っていた。

街灯に照らされて、淡く光る。

風が吹くたび、ひらひらと落ちる桜の花が、
まるで時の砂みたいに見えた。

蓮くんの話を、何度も頭の中で繰り返していた。

——私が、事故で死んだこと。
——彼が、それを見て、何度も時間をやり直してきたこと。

信じられない、と思いたかった。

けれど、胸の奥が知っていた。

あの夢も、あの痛みも、全部本物だったって。


「……私、死んだんだね」


小さな声でつぶやいた瞬間、
涙が頬を伝って落ちた。

蓮くんは何も言わず、ただ私の隣に座った。

その沈黙が、優しくて苦しかった。

「どうして、そこまでしてくれるの?」

彼は少しだけ俯いて、
それから夜空を見上げた。

「後悔したから。
 伝えなかったことが、こんなに痛いなんて知らなかった。
 だから何度でも繰り返して、
 君に“生きててほしい”って伝えたかった」

声が震えていた。

その言葉が胸に刺さって、息ができなくなる。

「……生きててほしい」

たったそれだけの願いなのに、
どうしてこんなに涙が止まらないんだろう。

私はそっと彼の手を握った。

冷たい夜気の中で、その温もりだけが確かだった。

「ねぇ、蓮くん。
 もし私が、また“あの日”に行っちゃうとしても……
 あなたを覚えていたい。
 だって、あなたがいた時間は、全部本当だったから」

蓮くんの目が揺れた。

その瞳の奥に、いくつもの“繰り返し”の涙が映っていた。

「大丈夫。今度は、ちゃんと笑うから」

自分でも不思議だった。

怖くてたまらないのに、心が少し軽くなっていた。

風が吹いて、桜の花びらが一枚、私の膝に落ちた。

その瞬間、夜の静けさの中で、確かに感じた。

――まだ終わってない。
 この時間は、これから変わる。