夢を見ていた。

白い光の中に、誰かの声が響いていた。

「――あかり!」

振り返ると、桜が散っていた。

淡い桃色の雨みたいに、空から降り注いでいる。

その中を、誰かが駆けてくる。

黒い制服の少年。

息を切らして、必死に何かを伝えようとしていた。

「ダメだ、行くな!」

でも、私は止まれなかった。

“行かなきゃ”という衝動だけが全身を支配していた。

そして、
まばゆい光が視界を焼き――
耳の奥で、金属の軋む音。

そして、何かが壊れるような衝撃。

「……っ!」

目を覚ました瞬間、息が乱れていた。

喉の奥がひりついて、心臓が痛い。



カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいた。

手のひらを見つめると、震えている。

夢なのに、痛みが残っていた。

頬を伝う涙も、温かかった。

「……事故、だったの?」

自分の声が、かすかに震えた。

頭の中で、断片的な映像がよぎる。


桜並木。

傘。

雨。

そして、血の匂い。

胸の奥で、何かが囁く。

“あの時、あなたは――死んだの”

「……いや……違う……」

声を出した瞬間、涙が止まらなくなった。

そのとき、スマホが震えた。

画面には、蓮くんの名前。

『今日、話したいことがある』

胸の鼓動が速くなる。

きっと彼も、何かを知っている。

この“夢”と、私の中の“記憶”のことを。

――もう逃げられない。

私は、真実を思い出そうとしている。