放課後の教室を出て、昇降口へ向かう廊下。

夕陽がガラスに反射して、視界が少し滲んだ。

あかりの言葉が、頭から離れない。

「どこかで会ったこと、ある?」

――やっぱり。

彼女の“時間”にも、ひびが入ってきている。

俺が何度この一日を繰り返しても、
あかりはいつも“初めて”だった。

笑って、泣いて、そして――最後にはいなくなっていた。

けれど、今回は違った。

彼女は、確かに“覚えていた”。

それは、ほんの一瞬の記憶のかけら。

でも、それだけで世界の均衡が揺らぐほどの出来事だ。

(もしかして……今回は、変えられる?)

その希望を抱くことが、怖かった。

前の世界でも、俺はそう思って、結局、彼女を失った。

昇降口で靴を履き替え、外に出ると、
桜の花びらが風に乗って頬をかすめた。

その瞬間、胸の奥が痛む。

——この光景を、俺は何度見たんだろう。

「柊くん!」

振り向くと、あかりが階段を駆け下りてきた。

その笑顔が、どうしようもなく眩しかった。

「また明日ね!」

その“また”という言葉に、
俺は小さく頷くしかできなかった。

明日が来る保証なんて、どこにもない。

けれど――

彼女がその言葉をくれる限り、俺は何度でも繰り返す。

“彼女を救うその日”まで。