隠れられる場所はないから、廊下に面している広い中庭に逃げ込むしかない。
立派な日本庭園になっている中庭には松の木や庭石が置かれているから、小柄なキヨなら十分隠れる場所がある。

キヨは呼吸を整えて廊下へと踏み出した。
さっきまでの勢いで歩くことはできない。
細心の注意を払って足音を殺して進んでいく。
廊下を三分の一ほど進んだところで、障子の向こうから人の声が聞こえてきて足を止めた。

「まだ仕事が残ってるの」
「少しくらい大丈夫だって」
これは使用人の男女の声か。
どうやら仕事をさぼって逢引しているようで、キヨに気がついている気配はない。
きっと互いに夢中なんだろう。