恋のリハーサルは本番です

拍手は、好きだ。

成功の証で、努力の回収で、
舞台に立つ人間に与えられる、いちばん分かりやすい報酬だから。

でも今日の拍手は、
――やけに、うるさかった。

幕が下りた瞬間、

翔は深く息を吐いた。

(……やったな)

成功だ。

間違いなく。

芝居は、生きた。

予定調和を越えた瞬間を、観客は見逃さなかった。

それは誇っていい。

――ただし。

翔は、視線だけで蓮を探す。

舞台袖。

照明の外。

まだ役を脱ぎきれていない背中。

(ああ)
(そういう顔するか)

自分が、半歩踏み出した瞬間。

蓮が、台本にない呼吸をした瞬間。

翔は、理解していた。

(逃げなかったな)

蓮は、ついに。

翔は、悔しさより先に、妙な納得を覚えていた。

(……遅いんだよ)

二作連続主演。

評価。信頼。安定。

全部、持ってるくせに。

肝心なところだけ、
ずっと「役者」と「脚本家」の線にしがみついて。

――今日、それを越えた。
舞台の上で。
観客の前で。

しかも、
あかりの書けなかった場所で。

翔は、歯の奥で小さく笑う。

(最悪だな)
(でも)
(それでこそだ)

カーテンコール。

並んだ三人。

拍手の波。

スポットライト。

その中で、翔は横目であかりを見る。

彼女は、笑っている。

でも。

指先が、わずかに震えている。

(……気づいてる)

書き手としてじゃない。

一人の女として。

そして、
その視線が――蓮に向いた瞬間。

翔は、確信した。

(ああ)
(もう、逃げ場はない)

ここから先は、
誰かが「待つ」話じゃない。
誰かが「選ばれる」話でもない。
――選びに行く話だ。

楽屋へ向かう通路。

翔は、すれ違いざま、

蓮の肩にだけ聞こえる声で言う。

「……やっとだな」

蓮は、何も言わない。

でも、視線だけで返してくる。

逃げない目。

翔は、満足でもあり、腹立たしくもある気持ちで、息を吐いた。

(じゃあ)
(次は、俺の番だ)

拍手の音は、まだ続いている。

その裏で、
三人分の覚悟が、静かに噛み合い始めていた。