恋のリハーサルは本番です

スマホが、震えた。

あかりの名前。

『わかったこと、聞かせて』

蓮は、画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

(……来た)

待たない、と決めた。

逃げない、と決めた。

それでも。

この一行は、重い。

(言えば、戻れない)

今まで守ってきた線。

脚本家と俳優。

舞台の秩序。

大人の距離。

全部、壊れる可能性がある。

(でも)

壊さなきゃ、始まらない。

蓮は、深く息を吸う。

返信欄に、指を置く。

最初に浮かんだ言葉は、消した。

長すぎる。

言い訳が混じる。

(違う)

覚悟は、飾らない。

短くていい。

正面から。

蓮は、打つ。

『俺は、もう待たない』

一瞬、送信をためらう。

(これで、終わるかもしれない)

それでも。

送った。

既読。

すぐ。

胸が、静かに痛む。

続けて、もう一文。

『脚本家としてじゃなくて、
 水無月あかりを、好きになった』

画面を見つめる。

心臓が、うるさい。

(……言った)

ついに。

今まで、何度も飲み込んできた言葉。

逃げる理由は、山ほどあった。

でも。

通しで、見た。

あかりが、壊れそうになりながらも、舞台を守る姿。

(あの人を)
(一人にしたくない)

さらに、打つ。

『答えを急がせるつもりはない。
 でも、気持ちを隠したまま
 隣に立つことは、できない』

ここで、止めた。

これ以上は、押し付けになる。

(待たないって)
(奪うことじゃない)
(逃げないことだ)

スマホを、伏せる。

窓の外。

夜は、静かだ。

でも。

もう、後戻りはできない。

(……翔なら)

どう言うだろう。

もっと、強く。

もっと、真っ直ぐ。

でも、蓮は蓮だ。

静かに。

確実に。

逃げ道を、消す。

再び、スマホが震える。

──既読。

返信は、まだ来ない。

それでも。

蓮は、笑った。

(待たないって)
(怖いな)

でも。

それ以上に。

(……楽だ)

嘘をつかない夜は。