婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

「……エーリヒ」
 クロエもそんなエーリヒの手を引いて立ち上がらせると、そのままその手を頬に押し当てる。
「私も、あなたがいないと生きていけない。何もかも失ったとしても、エーリヒさえ傍にいてくれたら、それでいいの」
 サージェを納得させるための、演技などではない。
 クロエの、心からの言葉だ。
 それはエーリヒも同じだろう。
 抱き合うふたりを、サージェは呆然と見つめている。
 魔法で攻撃されそうになり、寄り添い合って震えていたトリーアとリリンも、頬を染めて視線を逸らした。
 クロエとエーリヒは、そんな周囲の様子にまったく気付かず、ずっと寄り添っていた。

 しばらく抱き合っていたクロエとエーリヒだったが、ようやく我に返り、クロエはトリーアとリリンを連れて、町の宿に戻っていた。
 エーリヒは、捕縛したサージェをギルドに引き渡しに行っている。
 信用できないギルド員がいるのに大丈夫かと思うが、特別依頼の担当は、その町のギルド長になる。彼は大丈夫だとエーリヒが言っていたので、不安はない。
 それに、いくら逃亡を企てたとしても、もうサージェは魔法を使えない。
 もっとも、彼がそのことに気が付くまで、もうしばらく時間が必要になる。
 魔法が使えないとわかったとき、サージェはどうするだろう。
 反省して、人生をやり直してほしいと思うが、難しいだろうか。
 そんなことを考えているうちに、宿に到着した。
 クロエは部屋に入ると、すぐにふたりに謝罪した。
「ごめんなさい」
「どうしてあなたが謝るの?」
 リリンは困惑した顔でクロエを見つめている。