婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

 クロエが魔法を放ったわけではないので、きっとセーフだろう。
「サージェ様、大丈夫ですか?」
 あまりにも痛がるサージェを心配して、思わずリリンが駆け寄る。
 クロエたちの言葉で少し疑ってはいても、それでも心配せずにはいられなかったのだろう。
 人の話を聞かない悪癖はあるが、サージェとは違って、心根は優しい子なのかもしれない。
「うるさいっ!」
 けれどサージェは、そんなリリンを突き飛ばした。
 思い切り突き飛ばされ、リリンは地面に倒れる。
「クロエだけを連れて来いと言っただろう。この役立たずめ。所詮は移民の冒険者だな」
「……えっ」
 浴びせられた罵声に、リリンは呆然とした顔で、サージェを見上げる。
「サージェ、様?」
 地面に転がるリリンを、サージェはさらに足で蹴飛ばす。思うようにならなかった苛立ちを、すべて彼女にぶつけようとしていた。
「姉さんに何をする!」
 それを見たトリーアが、闇雲にサージェに突っ込んでいった。
「だめ、危ない!」
 サージェはまだ、魔法攻撃をもう一回分残している。
 そう思ってクロエは叫んだ。
 案の定、サージェは至近距離から魔法をトリーアとリリンに放とうとしていた。
 若い女性と、まだ幼い少年である。
 サージェの魔法攻撃を、あんな距離で受けてしまったら、怪我ではすまないかもしれない。
 自分が無駄に、サージェを挑発してしまったからだ。
 何とか庇わなくては。
 そう思ったクロエよりも先に、エーリヒが動いた。
 トリーアとリリンの前に立ち、サージェの魔法攻撃を、右腕で受け止める。
 その動きは、いつものエーリヒよりも速い。