婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

 彼は本気で抵抗するだろうから、それを制するように、力を上げる魔法。
 そして、魔法攻撃に備えた防御魔法など、やらなくてはならないことはたくさんある。
 そう訴えて、制圧するまで後方に控えているという約束で、同行することになった。
 町の中心を抜けて、スラム街まで移動する。
 薄暗い雰囲気に少しだけ怯むが、同じ年頃のリリンも日常的に出入りしている場所だ。
 それに住民の中には女性や子どももそれなりにいるようで、黒髪のクロエはそれほど目立つ存在ではない。
 スラム街に住む人々の視線はすべて、輝くような銀髪のエーリヒに向けられている。
 ここは貴族に迫害された者が辿り着く場所だ。もちろん、その視線も好意的なものではない。
 だがそんな視線を向けられるエーリヒは、サージェとの対決を前に、険しい表情をしている。
 もともと整った顔立ちをしているだけに、その気迫は凄まじく、エーリヒの表情を見た者は、関わってはいけないとばかりに視線を逸らす。
(そういえば……)
 クロエの隣を歩くリリンも、最初から敵意を向けてきたエーリヒが恐ろしいようで、その美貌に見惚れることはなかった。
 王女カサンドラを含めて、きっとほとんどの人は、険しい顔をしたエーリヒしか知らない。
 エーリヒの笑顔はとても綺麗なので、勿体ないと思う反面、自分だけのものにしておきたいとも思う。
「あの崩れかかった建物の中です」
 そんなことを考えていたクロエは、案内してくれていたトリーアの言葉に、我に返る。
 彼が指さした方向を見れば、今にも崩れ落ちそうな二階建ての建物があった。