婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

 エーリヒによれば、冒険者ギルドの職員でさえ、信用できないような印象の人もいたそうだ。
 王都や王都近くの町に比べると、かなり雑然とした雰囲気だった。
 エーリヒはクロエを宿まで送り届けると、そのままスラム街に向かう。
 もちろんその前に、彼には補助魔法を掛けている。
「すぐに戻るから、待っていてくれ。俺が戻ってくるまで、誰か訪ねてきても、部屋から出ないように」
 そう言われて、頷く。
「わかった。気を付けてね」
 エーリヒを送り出し、そのまま宿で待つ。
 こじんまりとした部屋は、木造で、なかなか落ち着ける空間である。
 ただお風呂がないのが、少し残念かもしれない。
 一般宿にはお風呂がなく、町に共同浴場がある。
 そこもなかなか広くて気持ちが良いらしいので、いつか行ってみたいと思う。
(銭湯みたいな感じかな?)
 部屋の窓から町の様子を眺めていると、廊下に人の気配を感じた。
「エーリヒ?」
 扉を開けようとして、彼が部屋に入ってくるまで、おとなしく待っているように言われたことを思い出して、手を止めた。
 性格は最悪だが、サージェも一応、自力で国籍を獲得するほどの魔導師である。
 用心したほうが良いと判断し、鍵の上にさらに魔法で扉を施錠した。
 様子を伺っていると、ドアノブをがちゃがちゃと動かす音がする。
 エーリヒならば、こんなことをするはずがない。
 そう思って、警戒を強める。
「あれ? 開かない……」
 けれど、耳を澄ましているクロエに聞こえてきたのは、まだ若い女性の困惑した声だった。
 もしかして、部屋を間違えたのだろうか。