何も知らないふりをしてそう尋ねると、アリーシャは少しだけ、言葉を選ぶように視線を彷徨わせる。
「キリフ殿下の婚約者はメルティガル侯爵家のご令嬢で、あなたと同じクロエという名前だった。そしてメルティガル侯爵は、この国の騎士団長よ」
「騎士団長……」
少しどきりとしたが、クロエの魔法はきちんと効果を示したようで、アリーシャも同じ名前だということ以外、何も言おうとしなかった。
この国では、軍部の司令官を形式的に騎士団長と呼んでいるので、クロエの父が剣を手に戦うわけではない。
だから、剣に優れている必要もなかった。
もし戦争が起きたとしても表には出ず、安全な後方で指揮をするだけだ。
それでもメルティガル侯爵家は代々その騎士団長を担っており、この国では名家の部類に入る。
「キリフ殿下は、王位継承にはあまり関わりのない方で、成人前に臣籍降下が決まっていた。そこで、メルティガル侯爵家のクロエ嬢と婚約していたのだけれど……。その辺りの事情は、話したわね」
「はい」
クロエは頷いた。
父の目的は、カサンドラ王女殿下と、会ったこともない異母弟との結婚である。そのためにはクロエとキリフとの結婚が条件だったらしい。
異母弟の母親は北方出身の魔導師で、異母弟にもわずかに魔力があったようだ。
国王陛下は、魔女であるカサンドラと魔力持ちの異母弟と結婚させれば、また魔女が生まれるかもしれないと期待したのだ。
「その婚約を、キリフ殿下は勝手に破棄しようとした。それを聞いた国王陛下は、かなりお怒りになったそうよ」
たしかに、ふたりの婚約は王命だった。
「キリフ殿下の婚約者はメルティガル侯爵家のご令嬢で、あなたと同じクロエという名前だった。そしてメルティガル侯爵は、この国の騎士団長よ」
「騎士団長……」
少しどきりとしたが、クロエの魔法はきちんと効果を示したようで、アリーシャも同じ名前だということ以外、何も言おうとしなかった。
この国では、軍部の司令官を形式的に騎士団長と呼んでいるので、クロエの父が剣を手に戦うわけではない。
だから、剣に優れている必要もなかった。
もし戦争が起きたとしても表には出ず、安全な後方で指揮をするだけだ。
それでもメルティガル侯爵家は代々その騎士団長を担っており、この国では名家の部類に入る。
「キリフ殿下は、王位継承にはあまり関わりのない方で、成人前に臣籍降下が決まっていた。そこで、メルティガル侯爵家のクロエ嬢と婚約していたのだけれど……。その辺りの事情は、話したわね」
「はい」
クロエは頷いた。
父の目的は、カサンドラ王女殿下と、会ったこともない異母弟との結婚である。そのためにはクロエとキリフとの結婚が条件だったらしい。
異母弟の母親は北方出身の魔導師で、異母弟にもわずかに魔力があったようだ。
国王陛下は、魔女であるカサンドラと魔力持ちの異母弟と結婚させれば、また魔女が生まれるかもしれないと期待したのだ。
「その婚約を、キリフ殿下は勝手に破棄しようとした。それを聞いた国王陛下は、かなりお怒りになったそうよ」
たしかに、ふたりの婚約は王命だった。


