婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

 王都を出てから、エーリヒは町で一緒に暮らしていたときのように、クロエに触れたがる。
 公爵家の馬車なので、中はとても広いのに、わざわざ隣に座っているくらいだ。
(ちょっと恥ずかしいけど……)
 男性にあまり免疫のないクロエだったが、それでも好きな人はまた別である。
 しかも、馬車の中ではふたりきりだ。
 他人の視線を気にする必要もない。
 クロエも、エーリヒの肩に寄りかかった。
「できるなら、生きて罪を償ってほしいけれど……」
 いくら人の話を聞かない暴走迷惑男でも、自分の命で償えとまでは思わない。
 でも、相手は魔導師。
 しかも人に魔法を教えるくらい、使い慣れている。
 そんな相手を無理に生け捕りにしようとして、エーリヒが危険に晒されたら大変だ。
「うーん……」
「クロエがいるから、きっと大丈夫だ」
 何か良い方法はないか。
 そう考え込むクロエに、エーリヒはあっさりとそう言った。
「私?」
「そう。クロエの力は、あんな男よりもずっと強い。きっと、王女よりも」
「そうかな?」
 サージェは魔導師で、クロエは魔女だ。
 持っている魔力が桁違いなので、経験の差はそれでカバーできるかもしれない。
 でも、この国で唯一の魔女と言われていたカサンドラは、自分の力を完全に使いこなしている。
 同じ魔女だからこそ、経験の差が大きいのではないか。
「俺がそう思う根拠は、ちゃんとある」
 クロエの考えがわかったように、エーリヒはそう言って、クロエを引き寄せた。
「わっ」
 不安定な馬車の中だ。
 バランスを崩して、彼の胸に頭を擦り寄せるような体勢になってしまう。