窓の外の夕陽を眺めながら、そんなことを考える。
 だから、移民の魔導師であるクロエを味方にしようとしたのだろう。
 だがそのクロエの元婚約者は、第二王子のキリフだ。
 彼はクロエにまったく興味がなく、いつも蔑んでいたから、髪色を変えただけで、顔を合わせてもわからないと思われる。
 それでも貴族社会の一員となれば、父や兄と会う機会もあるかもしれない。
 そこでクロエは魔女の力を使い、身内と元婚約者だけではなく、エーリヒを除いたすべての人間が、貴族令嬢だったクロエの顔を思い出せないようにした。
 直接顔を合わせ、会話をしたとしても、それがメディカル侯爵令嬢のクロエだとは、誰にもわからないだろう。
 本当のクロエは、エーリヒだけが知ってくれている。
 魔女であるクロエの魔法は強く、魔導師では見抜けない。
 同じ魔女であるカサンドラには少し注意が必要かもしれないが、彼女はそもそもクロエの顔を知らない。キリフの婚約者だった頃に挨拶をしたことはあるが、興味のないクロエのことなど、きっと覚えてもいないに違いない。
 もう二度と、メルティガル侯爵家のクロエに戻るつもりはないから、これでいい。
 そして先日、クロエはマードレット公爵家の養女として、王城での夜会に参加した。
 エスコートしてくれたのは、もちろん婚約者のエーリヒだ。
 エーリヒは、アウラー公爵の庶子である。
 アウラー公爵家で侍女をしていた母親が亡くなり、その後は公爵家に引き取られたが、正式に認知されておらず、今もきちんとした身分はない。
 間違いなく貴族の血は引いているものの、移民のクロエと同じような立場だった。